(写真はイメージです/PIXTA)

2021年4月に賃貸不動産の共有に関する規定が改正されました。共有物の変更や管理の定義が明確化されたほか、行方不明の共有者についての対処方法が創設されています。賃貸不動産の共有に関する規定の改正のポイントをみていきましょう。

賃貸不動産を共有分割する際の問題点

賃貸不動産を共有分割する場合には、デメリットをよく理解したうえでおこなわなければなりません。他の分割方法が難しいからといって安易に共有分割を選択してしまえば、単なる問題の先送りとなりかねないためです。

 

賃貸不動産を共有分割することの問題点は、次のとおりです。

 

賃貸不動産の変更などで他の共有者の同意が必要になる

賃貸不動産を共有すると、賃貸不動産についての大きな決断をする際に、その都度他の共有者の同意が必要となります。

 

これについての法律の規定は、次のとおりです。

 

  • 共有物の変更(売却や増改築など):共有者全員の同意
  • 共有物の管理(賃貸など):共有者の持分の過半数の同意
  • 共有物の保存(軽微な修繕など):他の共有者の同意は不要

 

つまり、共有である以上は共有者が単独でできる行為はかなり限定されており、共有となっている賃貸不動産に手を加える際には、他の共有者の同意が必要になる場面が多いということです。そのため、共有者同士の意見がまとまらない場合には争いに発展するリスクがあります。

 

賃貸不動産の他の共有者と連絡を取り合う必要がある

上で解説をした変更や管理のときでなくとも、賃貸不動産の共有者同士は連絡を取り合わざるを得ない場面が数多く存在します。たとえば、軽微な修繕をした場合に一部の共有者がまとめて支払った費用を他の共有者へ請求する場合や、入居者トラブルへの対応方法の相談などです。

 

そもそも相続での話し合いがうまくまとまらなかった結果として共有分割を選択したような場合には、共有者同士の関係性がよくない場合も少なくないでしょう。

 

そうした間柄であるにもかかわらず連絡を取り合わざるを得ない状況は、心理的なストレスの原因となりかねません。

 

また、些細なことからトラブルに発展してしまう可能性もあるでしょう。

 

相続を繰り返すことで共有関係が複雑になる

年月が経過すると、共有者にも相続が起き、代替わりが生じます。その結果、長男の子や妻と二男の子や妻、長女の子や夫が共有者となる可能性があるのです。

 

関係の遠い人同士の共有となれば連携を取ることは難しく、賃貸不動産の変更や管理についての同意を得ることがより困難となってしまいかねません。関係者の数が増えれば増えるほど、他の共有者の持分を買い取って共有を解消することなどもより困難となります。

 

共有分割を選択する際には、共有者間の現時点での関係性のみならず、いずれは共有者が亡くなり代替わりが起きることも考慮しておくべきでしょう。

2021年民法改正で賃貸不動産の共有規定は?

共有については、さまざまな問題点が指摘されていました。そこで、2021年4月28日に、共有について定めている民法の改正法が公布されています。

 

この改正法は公布から2年以内に施行されるとされており、2023年4月ごろまでに施行される予定です。共有について改正された主な内容は、次のとおりです。

 

共有物の変更に関するルールが明確化された

従来、共有物の変更については、次のように記載されているのみでした。

 

(共有物の変更)

第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

 

これだけでは、どこまでの行為が「変更」に含まれるのかの判断が困難です。変更に該当してしまえば共有者全員の同意が必要となるため、行為を主導する共有者としては、行おうとしている行為が変更に該当するかどうかが大きな問題となります。

 

しかし、条文のみでは判断のしようがないため、個別事情に応じて解釈や判断に委ねられていました。

 

そこで、改正では変更の後ろにカッコ書きを設け、変更に該当する行為かどうかの判断の基準を定めています。

 

(共有物の変更)

第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない

 

これにより、共有者全員の同意が必要とされる「変更」が、形状や効用に著しい変更を伴うものに限定されました。

 

これと併せて、共有者の一部が行方不明である場合には、行方不明の共有者以外の同意のみで変更行為ができるよう、裁判所へ請求できる制度も創設されています。

 

共有物の管理に関するルールが明確化された

共有物の変更と同様、共有物の管理についても定義が明確化されていませんでした。

 

改正法では、短期賃貸借など一定の行為を管理行為に該当すると明記するとともに、形状や効用の著しい変更を伴わないものは変更行為ではなく管理行為に該当すると整理しています。

 

改正法により「管理」に該当するとされた賃貸借は、それぞれ次の期間を超えないものです。

 

  • 樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃借権等:10年
  • 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等:5年
  • 建物の賃借権等:3年
  • 動産の賃借権等:6ヵ月

 

つまり、3年以内の期間で行うアパートなどの賃貸であれば、共有者の持分の過半数で行うことができるということです。

 

また、他の共有者が行方不明である場合や管理行為への賛否を明らかにしない場合などには、これらの共有者を除いた共有者の持分の過半数で管理行為ができるよう裁判所へ請求できる制度なども創設されました。

 

共有解消のルールが整備された

改正により、共有を解消する共有分割のルールが明確化されています。従来の規定では、共有分割について次のように定められているのみでした。

 

(裁判による共有物の分割)

第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。

 

しかし、この規定の記載のみでは、そもそも共有者の一部が行方不明などで協議をすることさえできない場合には、共有分割の請求ができないこととなります。

 

そこで、改正法では次のように定められました。

 

(裁判による共有物の分割)

第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。

 

これにより、協議が不調である場合のみならず、協議をすることができない場合であっても共有分割の請求ができることが明確化されています。

 

行方不明の共有者の持分を取得できる制度が創設された

これまで、共有者の一部が行方不明となってしまった結果、共有物の変更や管理に支障が出てしまうケースが少なからず存在していました。そこで改正法では、行方不明となった一部の共有者の持分を他の共有者が取得できるよう裁判所へ請求できる制度が新設されています。

 

請求が認められれば、行方不明となった共有者の持分を他の共有者が取得することが可能です。残った共有者が複数いる場合には、残った共有者の元々の共有持分で按分した分をそれぞれ取得することとなります。

 

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本記事はAuthense不動産法務のブログ・コラムを転載したものです。

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