(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『ロボット/AIニューズレター(2022/5/9号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

7. 民法(人格権)

メタバースでは、ユーザの活動の起点としてのアバターは、仮想世界における自己として重要な意味を持ちます。今後、人々がメタバースにおいて過ごす時間が長くなると、アバターは正に自分そのものであるとの感覚が生まれ、アバターが持つ重要性は増していくものと考えられます。

 

アバターは、デジタルの存在ですが、もし、アバターが、自分の一部または分身であるとすれば、それは人間である自分そのものであると言えます。他方で、アバターはいくらでも変更可能ですし、複数作成することも可能であり、必ずしも「ある人」と結びついているわけではありません。また、匿名性も高いと言えます。このようなアバターについては、①アバターの作成における問題と、②アバターの人格における問題が考えられます。

 

アバターの人格における問題は人の人格権の問題と関わってきます。人の人格権が侵害された場合には、民法の不法行為に当たるとして、損害賠償請求や差止請求の対象となりますが、アバターの「人格」が侵害された場合には、損害賠償請求や差止請求ができるのかということが問題となります。

 

(1)アバターの作成における問題

アバターの作成に当たっては、①誰かを真似る、②全く独自にアバターを作成するという2つのパターンがあります。①の場合、さらに(a)自分を真似る、(b)有名人を真似る、(c)有名人でない人(一般人)を真似る、(d)キャラクターを真似るというパターンがあります。

 

有名人を真似たアバターを使用する場合には、その有名人のパブリシティ権を侵害するおそれがあります。

 

パブリシティ権とは、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する肖像等について、顧客吸引力を排他的に利用する権利のことを言います。

 

もっともパブリシティ権の侵害となるのは、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とすると言える場合」であり、具体的には、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する場合、③肖像等を商品等の広告として使用する場合があるとされています※2

 

※2 最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁[ピンク・レディー事件]

 

そうだとすると、ユーザが自らの楽しみのために有名人を真似たアバターを使用したとしても、顧客吸引力の利用を目的としていないものとして、パブリシティ権の侵害には当たらないとされる可能性もあります。

 

また、有名人ではなく、有名な物を真似るパターンも考えられます。例えば、実在する競走馬や上野動物園のパンダを真似たアバターを作成するといった場合です。もっとも、このような「物」については、人格権がないことから、パブリシティ権は認められないものとされています※3

 

※3 最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁[ギャロップレーサー事件]

 

次に、友人など一般人を真似るアバターを無断で使用する場合にはどうでしょうか。その場合には、その人の肖像権を侵害するおそれがあります。

 

肖像権とは、みだりに自己の容貌等を撮影され、これを公表されない権利であると考えられています。そして、肖像権侵害となるか否かは諸般の事情を総合的に判断するものとされています。アバターが友人そっくりの場合には、その友人の肖像権を侵害するおそれが高いと言えます。他方で、アバターがデフォルメされており、友人だとにわかにわからない場合には肖像権侵害のおそれは低くなると言えます。

 

最後に、アニメ、漫画、VTuberなどのキャラクターを真似たアバターについては、「メタバースの法律と論点(上)」において前述した知的財産法の問題(主に著作権、商標権)が生じます。

 

(2)アバターの人格における問題

メタバースの世界におけるアバターは、ユーザにとっては、仮想世界における自己と言えるものです。

 

では、アバターに対して誹謗中傷がなされた場合、アバターに対する民事上の名誉毀損として不法行為(民法709条、710条)が成立するのでしょうか。

 

人の名誉は人格権として保護されており、人の社会的評価を低下させる行為については不法行為が成立し得ます。そこで、アバターが、「人」の社会的評価を低下させるのかが問題となります。

 

アバターに対する誹謗中傷が、その背後にいるユーザという人の社会的評価を低下させるのであれば、名誉毀損の成立することは明らかですが、アバターのみの社会的評価を下げ、その背後の人の社会的評価を下げないような場合には、人の人格権を侵害しない以上、名誉毀損は成立しないという考え方もあり得ます。

 

しかし、アバターが、ユーザにとって仮想世界における自己と言えるものになっている場合もあることから、そのような場合には、アバターの社会的評価を下げる行為についても名誉毀損の成立を認めるという考えも十分あり得ますし4、そのような解釈の方がメタバースにおけるアバターの意義を適切に反映していると思われます。

 

※4 法人に対する名誉毀損の成立も認められており(最判昭和39年1月28日民集18巻1号136頁)、名誉毀損は人についてのみ成立するものではないとされています。

 

[図表2]アバターに対する名誉毀損

 

また、あるアバターを模倣したアバターを無断で作成・利用する行為については、著作権法などの知的財産法に基づいて対応することも考えられますが、アバターに人格権があるとして、パブリシティ権や肖像権を認めるべきではないかという議論も将来的には起こり得るかもしれません。

 

(3)アバターに対するハラスメント

メタバースにおいて、アバターに対するセクシュアルハラスメントやつきまといといった行為も発生しています。バーチャル空間では没入感が強いため、メタバースにおいて触られると実際に触られたように感じることもあります。

 

このようなハラスメント行為への対策として、メタ社では「Horizon Worlds」に、ユーザのアバターの周囲に約1.2メートルの「個人の境界線」を作り、そこに他人が入れないようにし、望まない交流や接触を回避できるようにしています。

 

このようにセクシュアルハラスメントやつきまといといった行為を技術(アーキテクチャ)によって防止することも可能ですが、そのような対策が設けられていない場合や、対策の設定を解除していた場合においてハラスメント行為の発生が考えられ、そのような場合に、現実世界と同様に、ハラスメント行為に対して不法行為責任を追及できるのかが問題になります。

 

もし、裁判になった場合に、どのような行為がハラスメント行為として損害賠償責任を負うかは、現実世界においても時代において変化していますが、バーチャル空間における特質を踏まえた判断がされるのかは現時点では不明確と言えます。

 

(4)小括

アバターについては、メタバースにおいて、ユーザにとっては、仮想世界における自己と言えるものであり、重要な役割を果たすものと考えますが、一般的には、「ゲームキャラクターのようなもの」と認識され、保護するべきものであるとまでは考えられていない印象があります。かかる認識の下では、アバターについての様々な権利保護が十分に図られませんが、メタバースが発展するに当たって、いずれアバターについての権利保護が重要になるものと考えます。

8. 個人情報保護法・民法(プライバシー権)

メタバースにおいては、メタバース内に一度入ってしまうと、その中における全ての行動に関するデータが収集できます。また、ユーザが、アイトラック・フェイストラック・フルトラックなどを利用している場合には、人の視線・表情・体の動作などの動きのデータを収集することもできます。一日数時間をメタバース内で過ごす人もいます。その意味で、メタバースでは、より多くのパーソナルデータの収集をすることが可能であるため、裏を返せばよりプライバシーの侵害の程度が大きくなるリスクがあります。

 

そこで、このようなパーソナルデータの収集がプライバシー権の侵害や、個人情報保護法に違反しないかが問題となります。

 

メタバースには世界中からアクセス可能であり、様々な国の人が参加することが考えられます。そのような場合には、各国の個人情報保護法制を考慮する必要があります。

 

近時、Yahoo! Japanが、EUの個人情報保護法制であるGDPRに対応する負担が重いことも理由として、EU向けサービスを停止したことがありましたが、そのようなことも選択肢の一つとして考える必要が生じてきます。

 

メタバースに特徴的な法的論点としては、アバターに関するデータは個人情報に当たるのかというものがあります。これは、各国の法制度によりますが、日本においては、個人情報保護法の対象となる「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」とされていることから(個人情報保護法2条1項1号)、容易に照合可能な情報を参照したとしても個人が特定できないのであれば、そのアバターのデータは個人情報には該当しないことになります。他方で、アバターの名前が本名でなくても、容易に照合可能な情報を参照して個人が特定できるのであれば、アバターの情報は個人情報に当たることになります。

 

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○執筆者プロフィールページ 
福岡真之介

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