医師キャリアにおける「開業医」の位置づけ
■かつての開業は「いつでも、誰でもできる」「医師キャリアの最終段階」
今や開業は、「開業でもするか」という突然の思いつきでできるものではありません。最大のハードルである資金以外にも、競争の激化やそれに伴うスキルの獲得、制度・仕組みの変更などが壁として立ちはだかります。かつての開業には医師のキャリアのなかでも際立って特異的な点が3つありました。
1つ目は、自分が主体的にいつでも選択できるポジションであることです。大学教授や病院部長という地位は望んでも得られる保証はなく、その地位に就くこと自体が評価の表れと言えます。競争を勝ち抜いて獲得した地位は価値が高く、誰でも得られる地位は値打ちがないということでしょうか。
2つ目は、特段の才能やスキルがなくてもできることです。これはクリニックの倒産や廃業件数を見ても実証されています。99%以上が潰れないということは、他の業界では考えられない数字で、誰がやってもできると判断されても仕方がありません。
3つ目は、医師キャリアの最終段階に位置するということです。開業はその後のキャリアが描きにくく、キャリアの最終段階に位置します。医者人生に自らがけりをつけることになるのです。つまり、後戻りできないポジションということが、一層その選択を難しくしているとも言えます。
この3つの特異性から、キャリア早々に開業する医者は少なく、開業は「進退窮まって」「次の就職先がなくて」「教授戦に敗れて」「定年後」などにやむなく選択されてきた道でした。そして、最後の手段であったその道も閉ざされつつあります。開業が「いつでもでき」「誰でもやれる」なら、本連載の存在価値はまったくありません。さまざまなハードルがあり、それを乗り越える方策のヒントを得るために本連載を活用していただきたいのです。
■これからの開業医は「まったく逆の位置づけ」になる
次に「過去」を踏まえたうえでの現状認識を共有していきましょう。留意事項は3つあります。
1つ目は、開業の道は不意に選ぶことはできないということです。「いつでも、どこでも、誰でも」できるということはありません。ひと昔前なら上司と喧嘩して即退職し、その3ヵ月後には突貫工事で開業にこぎつけたような話は結構ありました。
しかし、今や資金計画を筆頭に周到に準備すべきことはたくさんあります。よほど資金力がないと、1~2年の準備期間で開業するのは難しいでしょう。無担保融資も今はまだ優遇されていますが、悪化の一途をたどることは間違いありません。開業がリスクを伴う事業になっていくからです。開業という選択肢を確保しておきたい人は5年、10年と長期の貯蓄計画を立てておくべきです。それは、あなた自身の今の気持ちだけで判断してはなりません。開業医のなかには私も含め、「開業だけはしないでおこう」と思っていた人が少なくないからです。人間自分がどうなるか、どうなりたいかはその局面で変わっていきます。自らその選択肢の1つを摘み取ることでいいのか、よく考えておくことをお勧めします。
2つ目は、今後、開業医は激変の波にさらされるということです。制度改革の余波を受けるなどで、閉院を余儀なくされることが普通に起こるようになります。そして、開業が医師キャリアの最終段階ではなくなり、閉院して勤務医に戻る、教授になるということが珍しくなくなります。ただ、開業医を辞めても病院勤務は狭き門になるので、そんな場合、受け皿は在宅医療の勤務医になるかもしれません。
3つ目は、クリニック運営がうまくいくことが大前提となりますが、定年がないことです。今や人生100年時代です。勤務先で70歳くらいまで働けるようになるかもしれませんが、その後はどうでしょうか。開業医の定年制が導入される懸念はあるものの、医師として仕事を全うしたいという希望が一番叶いやすいのは開業医かもしれません。
さて、先ほど開業には3つの特異性があると指摘しました。しかし、今後は、「いつでもできない」「誰でもやれない」「次もあり得る」というまったく逆の位置づけになるのです。開業医は今よりもステイタスが上がるだけでなく、医師キャリアの早期から意識せざるを得ないポジションになっていくのかもしれません。
老木 浩之
医療法人hi-mex 理事長
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