(※写真はイメージです/PIXTA)

開業準備のあらゆる面において「節約」を考えることはとても重要です。大幅に資金を節約したい人は、開業支援業者に卸業を兼ねさせてはいけません。お金のかかる交渉は、建築・内装工事、医療機器・什器の購入、電話・水道・ガスなどのインフラの契約など。本稿では、老木浩之氏の著書『開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと』(日本医療企画)より、「医療機器購入のポイント」について解説します。

ポイント①高額医療機器は「メーカーの直販」を目指す

節約とは、100万円の製品を80万円で買うというような気持ちのよいものではなく(実際にはこのようなことも起こり得ますが)、100万円の見積もりを粘り強い交渉で99万7600円にすることです。つまり、節約とは細かな作業で、「チリも積もれば」という意識を強く持たなくては成就できません。

 

■卸業者を介して購入すれば「割高」になって当然

医療機器の購入ルートは2通りで、メーカーの直販と卸業者を介しての購入があります。基本的に卸業者が介在するとその分、割高になるのが経済原則です。つまり、できる限り直販で購入するほうがよいのですが、ボーっと生きていると、直販で購入できるものまで卸業者を介して購入する羽目になります。その仕組みをしっかりと理解しましょう。医療機器メーカー側の立場で、販売時に卸業者を介在させる理由を挙げてみます。

 

1. 普段の簡単なメンテナンスなどを卸業者に任せることができる

2. 納品や修理時の回収などを卸業者に任せることができる

3. メーカーに営業や販売部門がなく、卸業者からの販売が前提となっている

4. 販売を指定卸業者に委託する業務提携が成立している

5. 自社製品を購入者に紹介してくれたのが卸業者だった

 

1と2は購入後、卸業者の協力が得られればメーカーの役に立つという理由です。したがって、たとえば聴診器などの医療小物は2の理由で卸業者が介在します。設置型の医療機器でも卸業者が簡単な点検などを行える場合があります。

 

3と4は卸業者からの販売がシステムに組み込まれており、直販はほぼ不可能です。

 

5は購入者の開業医が最も注目すべきところです。大型精密医療機器、たとえばレントゲン撮影装置などでは販売後、設置やその後のメンテナンスはメーカーが自社で行わざるを得ないため、卸業者を介在させるメリットはありません。しかし、卸業者が購入者となる医師を紹介してくれた場合には、その卸業者を通して販売せざるを得ないのです。つまり、卸業者から紹介されたメーカーの医療機器は決して直販にはならないということです。

 

■直販しているかどうかは「自分でメーカー側に電話」して確認

まずはメーカーが直販を行っているかどうかが問題となります。1~4の条件に照らし合わせるとおおよその推測はできますが、確実に確認する方法があります。メーカーに直接電話して問い合わせることです。自分で電話せず開業支援業者に任せることは直販の放棄を意味します。絶対にしないでください。

 

直接電話をすると、メーカーの回答は、「できる」「できない」「価格交渉まではできるけれど、実際の購入は卸業者を通してください」の3通りがあります。このうち、3番目のパターンでは卸業者が介在する販売システムになっているため、メーカーと直接価格交渉をしても販売価格は卸業者の儲けを上乗せした価格になります。しかし、上乗せ額は一律なので、卸業者と価格交渉するよりも少しは安価になるはずです。価格交渉は可能な限りメーカーとすべきなのです。

ポイント②「アイミツ」による価格競争

■「初回の見積もりだけで決める」と伝えた上で相見積もりを取る

直販が可能な医療機器は、他社にも見積もりを出させて価格競争をさせます。このことを相見積もり(アイミツ)と言います。通常、何も言わなければ値切り幅を刻んで提示してきます。競合の見積価格の探りを入れるという意味があるのかもしれませんが、こんな価格提示は見過ごさないようにしてください。交渉を重ねてメーカーが提示価格を下げるということは、初期の提示価格が「まだ下げられる価格」だったことを意味します。私はアイミツの場合、「一発勝負、駆け引きなし」と初回の見積もりで決めることを通告しています。

 

たとえば、A社の見積価格が500万円、B社の見積価格が460万円だったとします。安値のB社で決めてもよいのですが、A社とB社の医療機器は仕様や性能、使い勝手、デザインが違います。はじめからB社は当て馬で、A社の医療機器がほしかった場合は、A社に「B社は460万円なので、同じ価格まで下がったら決める」と価格の再交渉をします。A社は目標価格というゴールが見えると、社内の意思決定がスムーズになります。つまり、希望通りに下がる可能性が十分にあるのです。もちろん、結果的に480万円にしかならなかったとしても、A社の医療機器がほしければ購入すればいいのです。

 

「初回の見積もりだけで決める」と通告していたら、嘘をついていることになるかというと、この程度の通告は交渉術の一環として許容されます(と私は思っています)。A社に「B社は440万円の見積もりだったので同じ価格まで下げて」というのは明らかな嘘です。業者同士は私たち消費者が知らないところでつながっており、すべてお見通しです。信用を失うことになります。

ポイント③メンテナンス交渉は購入前に

ンテナンス価格の値下げ交渉は「アイミツの段階」から始める

大型、もしくは精密医療機器には定期点検などのメンテナンスが必要です。医療機器の購入時に忘れてはならないことは、購入後のメンテナンス条件の確認です。通常、メーカー側はこの話題を避けます。なぜなら、購入させてしまえばメンテナンスは不可避なので、メーカーがその価格を自由に決められるからです。メンテナンス価格で安定収入を得るというのがメーカー側の戦略です。

 

購入前にメンテナンスのことを聞くと、「1年間は無償でメンテナンスします」と言います。1年間の無償保証はほとんどの機器で設定されていることなので、これはメンテナンス交渉ではありません。そのあとの話が重要です。「2年目以降はどうなるのか?」を詳しく聞きます。当然、購入決定後に聞いても意味がありません。メンテナンス価格はアイミツの段階から提示を求めます。メンテナンス価格の値下げ交渉に応じてこない場合は、購入価格のさらなる値引き交渉の材料にできる可能性があります。

ポイント④卸業者を介して医療機器を購入する場合

■「卸業者から購入する場合」の価格競争

卸業者からの購入であっても価格競争の状況をつくり出すことは可能です。たとえば、A社の医療機器のアイミツをP卸社とQ卸社にかけてもまったく意味がありません。彼らは裏でつながっており、先に交渉を始めた会社がその医療機器の交渉権を得ることが決まっているからです(いるようです)。

 

 

そのため、交渉権のあるP卸社の見積価格が80万円の場合、あとから参入してきたQ卸社は83万円、R卸社は86万円など、P卸社に負ける価格しか提示してきません。つまり、A社の同一医療機器の見積もりを複数の卸会社に競争させることはできないのです。価格競争の状況をつくり出すためには、A社の医療機器の見積価格をP卸社に、B社の医療機器の見積価格をQ卸社に提示してもらう必要があります。

 

なお、A社の医療機器の見積価格とB社の医療機器の見積価格を同じP卸社に提示してもらい、競争させるのは危険です。どんなにメーカー同士が本気の価格競争をしても、P卸社の思惑で何とでもなるからです。P卸社を真剣にさせる状況をいかにつくり出せるかがポイントです。

 

 

老木 浩之

医療法人hi-mex 理事長

 

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本連載は、老木浩之氏の著書『開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと』(日本医療企画)から一部を抜粋し、再構成したものです。

開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと

開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと

老木 浩之

日本医療企画

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