株価や不動産価格が適度に上がっているのに、バブルだからといって押さえつけるのは、経済をおかしくする可能性があります。平成バブルの対処で問題だったのは、ある種の見込み違いを政府や日銀がやってしまったといいます。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

「地価税」導入しない選択肢はなかった

■平成バブル対処の失敗

 

バブルはやはり経済にとっては良くありません。「バブルは崩壊するからバブル」という定義のバブルには、確かになってはいけません。崩壊でもたらされるマイナスは大きいですから。

 

ただ、株価や不動産価格が適度に上がっているのに、バブルだからといって押さえつけるのは、むしろ経済をおかしくする可能性があります。

 

不動産価格が上がるということは、持つ者と持たない者の格差問題は出ますが、それだけ不動産所有者の信用力が上がって、購買力が上がるかもしれません。既存のマイホームの保有者にとっても、家の値段が上がるのはいいことです。個人や階層によってばらつきはあるにしても、一般論として考えた場合、不動産価格が適度に上がるということは目くじら立てる話ではありません。むしろ下がるほうが恐ろしい。資産デフレのほうが怖い。

 

平成バブルの対処で問題だったのは、ある種の見込み違いを政府や日銀がやってしまったことです。あのとき日銀と政治家は株価と同時に不動産価格が高騰して、一般の人たちがマイホームを手に入れられなくなるのではないかと、危惧したわけです。当時、結構な社会問題にもなりました。

 

日銀が金融の引き締めを始めたのは1989年でしたが、株価はそれでも響かずにどんどん上がりました。日銀の利上げにも反応して、やっと株価が下がりはじめたのが1990年です。そうしたら今度は不動産価格高止まりが問題だということで、当時の大蔵省が土地融資の総量規制をやりました。銀行は不動産関係の融資を絞りなさいと、窓口指導したのです。

 

ところが不動産価格は下がらない。下がるどころかまだまだ上がるので、もっと強力な手を打たないといけないと地価税(土地保有コストを上げて土地の投機を抑え、有効利用を図るための国税)を導入しました。1991年の税制改正で創設し、1992年からの施行です。

 

しかしながら、その頃には株価はどんどん下がっていて、日銀の金融引き締めも効いていました。その影響で不動産価格も下がりはじめていたのです。それなのに地価税導入で、さらに上から叩くことになってしまいました。それで不動産価格が暴落してしまったということです。地価税は余計だったと思います。

 

いまから考えると、「地価税導入はやっぱりやめよう」という選択肢はなかったのかと思われるかもしれません。でもそれは恐らくなかった。大蔵省に影響力を持つ当時の指導者宮澤喜一さんにしても、橋本龍太郎さんにしても、「やる、やる」と言っていましたから。与党も地価税導入に賛成しましたし。大蔵省としたら増税になること、税の財源ができることは大いに賛成ですから、止める者は事実上いませんでした。

 

不動産価格がどんどん下がることがいかに信用メカニズムを委縮させるかについての考察が足りなかった。政治家は勿論、行政や日銀はこのような見込み違いを大いにやるわけです。

 

もともと日本は不動産価格が高い国と言われていますが、適正な地価がいくらなのかと言われても、非常に主観的な判断しかできないから難しい。土地の上に工場やオフィスビルを建てて賃貸した場合、どれだけの収入があるかということから逆算して、適正な不動産価格が算出できるという話はあります。とはいえ、それで不動産価格が抑制されるようになるのかと言われても、非常に難しい。理論的には可能かもしれませんが、なんらかの理由で需要が増えれば価格が上がるのは必然です。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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