(※写真はイメージです/PIXTA)

入居率、入居維持率の双方が高いホームは、一般論として「良いホーム」と考えて問題はありません。さらに教育も大事になってきます。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

老人ホームの教育には2つの機能と目的が

つまり、現場職員は、ホーム内で提供される介護看護業務の「質」そのものだと言っても過言ではありません。現場職員の質が高ければ、そこで提供されているサービスの質も高い、という言い方もできるはずです。産業的な言い方をすると、介護サービスの質を上げるには、介護職員の質を上げること、ということになるのです。そして、それを日夜、指導、教育をしている組織が恒常的に存在しているということが、重要になるのです。

 

考えてみてください。いくら長い歴史を有する老人ホームだったとしても、そこで介護職員として働いている人たち全員が、長い介護歴があるとは限りません。中には、ホームの歴史は長いが、働いている介護職員は新人ばかり、というケースもあると思います。

 

さらに言えば、多くのホームでは、新人、中堅、ベテランが混在し、それこそ、介護看護スキルにばらつきが生じています。サービスの品質にばらつきがあるということです。

 

ホーム長などの管理者が、どう整合性をとって運営していくのか? ということになるのですが、現実的な話をすれば、管理者だけに任せておくような話ではありません。最近、サステナブルとかSDGsなどというキーワードが踊っていますが、老人ホームにおいて、持続可能な介護看護支援を提供していくためには、すべてを管理者任せにしていては、うまくいきません。

 

私の目から見ても、このホームは統制がとれ、教育が行き届いている良いホームだな、というホームはありますが、このホーム長がいなくなったら、このホームは、いったいどうなるのだろうか? と心配になる時が多々あります。

 

したがって、同一企業において複数のホームを展開しているような場合は、職員教育を司どる組織が本部と言われるところにないと、結局は、単なる職人集団になって、個人の力に大きく依存することになってしまいます。そして、その人がいなくなったとたんに、ホームがガタガタになるという話は、実によくある話です。そうなった場合、最終的に割を食うのはもちろん入居者であり、その家族であるということは言うまでもありません。

 

最後に、次のことを加えておきます。

 

老人ホームの「教育」には、2つの機能と目的があります。1つは、提供しているサービス自体を管理するという意味での教育、もう1つは、サービスをどう提供していくのかを考える、という意味の教育です。これまで私が、重要だと言ってきている教育は、当然、後者のことを言っています。ちなみに、前者の教育は、私は教育というよりも営業だと考えています。

 

詳しい説明は省きますが、多くのケースでは、「このような業務ができないと、または、このような業務に取り組まないと介護保険報酬の算定ができませんよ」という制度のもと、算定することができるように介護職員を教育していくことを言います。知識や技術の習得という色合いが強いと思います。

 

しかし、私がここで言っている「教育」とは、そのようなことではありません。もちろん、そのような教育が無駄だと言っているのではありません。経営的な視点では重要です。私の考える「教育」とは、サービスをどう提供していくべきなのかということに対する教育です。適切な表現かどうかはわかりませんが、学校教育にたとえて考えてみれば、数学とか理科という知識の習得ではなく、道徳のようなものにあたるはずです。

 

たとえば「同じタイミングで、2人の入居者からナースコールが鳴りました。ここにはあなた一人しかいません。どちらの入居者を優先して対応するべきですか」という問いに対し、どう行動するべきなのか? という話です。どちらを優先するべきなのかを考え、どちらにするかを決めること、そして決めたら、職員全員で同じ見解を共有できること。

 

このことを、私は「教育」と言っています。そして、このことがホーム運営では重要であり、このことについて全職員が同じ認識を持っているという状態を、教育が行き届いているホームと言っています。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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