(※写真はイメージです/PIXTA)

少し前まで、「低血糖症」は糖尿病の治療で血糖降下薬やインスリンを使用している人か、インスリンを分泌する内分泌腫瘍がない限り起こらないと信じられてきました。しかし、食後に急激に血糖が上がる「血糖値スパイク」という病態があり、その反動で急激に血糖が下がる病態があることが分かってきたのです。今回は「機能性低血糖症(血糖調節障害)」について見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

なぜ、細胞のセンサーが低下してしまうのか?

どうして血糖値スパイクが起こるのかという素朴な疑問に対して明確に答えてくれる文献は、今のところほとんどありません。まだ研究段階で、解明されていないことも多くあります。

 

私の推論ですがインクレチン分泌細胞やインスリン分泌細胞にある受容体の感受性が鈍くなることで、インスリンの初期分泌がうまくいかなくなり、食後の高血糖、つまり血糖値スパイクに繋がる可能性があります。

 

インクレチン分泌細胞やインスリン分泌細胞の感受性が低下することによって、インスリンが分泌されるタイミングがずれると考えると、非常に納得がいきます。

 

では、小腸の中にあるインクレチン分泌細胞はどうして、糖質に対してのセンサーが鈍くなるのでしょうか?

 

■健康状態を左右する「腸内細菌叢の乱れ」がインクレチン分泌にも影響?

腸内のマイクロバイオータ(腸内細菌叢。腸内フローラとも)は、私たちの身体のバランスを整える上で非常に重要な役割を担っています。であれば小腸を通過する糖質とインクレチン分泌細胞との反応に、マイクロバイオータが関与していてもまったく不思議ではありません。マイクロバイオータによって作られる短鎖脂肪酸という物質が、インクレチンの分泌を促進するという報告があります。つまり、マイクロバイオータが乱れることで、腸管が血糖を調節するシステムがうまく働かなくなる理由は十分に説明できるのです。

 

私がこう考えるのは、腸内環境を整え、腸管ディスバイオーシス(マイクロバイオータのバランスの乱れ)を改善することで、これらの血糖値スパイクや機能性低血糖の症状が改善する患者さんをたくさん診てきたからです。

 

通常は、血糖値スパイクやそれに付随して起こる低血糖症に対しては、糖質を制限したり、食事の間隔を短くしたりする方法しかないとされています。しかし、当院での治療経験からは、そのように対処しながら、腸内環境を整えることで、だんだんと糖質を摂っても血糖値スパイクや低血糖症を起こさなくなってくるのです。

 

確実な機序については分かりませんが、実際に腸管ディスバイオーシスが改善することで、低血糖症の症状が改善するのです。

 

マイクロバイオータから発信されるシグナルが狂うことで、インクレチン分泌細胞が腸管内の糖質を正しく認識するセンサーの感度が鈍ることは十分にありえると考えます。今後の研究の進展を待ちたいと思います。

 

今回は、機能性低血糖症の原因となる血糖値スパイクが起こる機序について考えてきました。私の推論で述べた部分もありますが、機能性低血糖症であっても、単に補食を頻回に取ったり、糖質を制限したりするのではなく、根本的に腸管を整えることで治る場合があるということを知っていただければと思います。その機序についてはこれからの研究の結果を待ちたいと思います。

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

 

藤井 祐介

株式会社イームス 代表取締役社長

メタジェニックス株式会社 取締役

株式会社MSS 製品開発最高責任者

 

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