(※写真はイメージです/PIXTA)

少し前まで、「低血糖症」は糖尿病の治療で血糖降下薬やインスリンを使用している人か、インスリンを分泌する内分泌腫瘍がない限り起こらないと信じられてきました。しかし、食後に急激に血糖が上がる「血糖値スパイク」という病態があり、その反動で急激に血糖が下がる病態があることが分かってきたのです。今回は「機能性低血糖症(血糖調節障害)」について見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

血糖値スパイクはどうして起こるのか?

私たちが食事をすると、膵臓(すいぞう)に情報が伝えられて、血糖を下げるためにインスリンというホルモンが分泌されます。通常は、この自動血糖調節機能によって、血糖はおおよそ80〜120の間に調節されています。この自動調節がうまく働かないと、血糖が急激に上がったり下がったりするようになります。

 

インスリンの効き具合が悪くなる「インスリン抵抗性」を起こすと、血糖が下がりにくくなり高血糖症や糖尿病になります。しかし、血糖値が食後に急激に上がるのは別の機序が原因で起こっていると考えられます。それを知るために、食事をしてからインスリンが分泌されるまでにどのような機序が働いているのかを見ていくことにしましょう。

 

■小腸に「インスリン分泌を指示する消化管ホルモン」が発見された

まず、腸管から膵臓に「食事(糖質)が送られてきたよ。インスリンを出して血糖を下げてください」というメッセージが出されます。

 

これまで小腸は、食べ物を消化、吸収する臓器であると考えられてきました。しかし、小腸からもホルモンが分泌されることが分かり、消化管ホルモンと呼ばれるようになりました。

 

消化管ホルモンの一つであるインクレチンにはGIPとGLP-1という2種類があります。糖分が胃から小腸に送られてくると、小腸からインクレチンが分泌され、膵臓に指令を出し、インスリン分泌を促します。

 

インクレチンは、「膵臓のランゲルハンス島β細胞を刺激して、血糖値依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン」として定義されます。インクレチンの血中濃度は食後数分~15分以内に上昇し、食後の血糖上昇によるβ細胞からのインスリン分泌を促進します。

 

そして分泌されたインクレチンは、ジペプチジルペプチダーゼ-4(dipeptidyl peptidase-4:DPP-4)という消化酵素によって速やかに不活性化されます。このため、インクレチンの血中半減期は数分とごく短いことが知られています。

 

インクレチンによるインスリン促進作用は「インクレチン効果」と呼ばれ、食事を摂ってから最初に血糖が上がり始めた初期のタイミングで分泌されるので、インスリンの初期分泌といいます。つまり、インスリンの初期分泌にインクレチンが非常に重要な役割をしているということです。

 

さらに、このインクレチン効果は、糖負荷後の総インスリン分泌の約50%以上と言われていて、食後の血糖維持に大きく貢献しているのです。この初期分泌を知る指標として、インスリン分泌指数というのがあります。

 

<インスリン分泌指数(insulinogenic index)>

75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)では、負荷後30分の血中インスリン増加量を血糖値の増加量で割った値をインスリン分泌指数といい、インスリンの初期分泌能の指標となります。

 

■インクレチン効果がうまく働かないと血糖値スパイクが起こる

この「インクレチン効果」がうまくいかないとどうなるかはお分かりのことと思います。食後早期での血糖の上昇を抑えることができず、急激な血糖上昇が起こります。つまり、これが「血糖値スパイク」なのです。スパイクとは英語で「先の鋭くとがったもの」という意味があり、血糖値をグラフで表したときに先の鋭いトゲのような形になっています。

 

血糖値スパイクが起こると大きく分けて2種類の症状が起こります。一つ目は急激な血糖値の上昇によって、インスリンが過剰に分泌されることで、眠気やだるさといった症状が出ることがあります。インスリンの血中濃度が高くなることで起こる症状です。二つ目は血糖値が急激に下がることで引き起こされる頭痛や吐き気、手足のしびれ、倦怠感などの症状です。つまり、これが低血糖の症状です。

 

誰でも食後は血糖値が一時的に高くなります。しかし、インクレチン効果により、タイミングよくインスリンが分泌されることで、血糖は急激に上がったり、下がったりすることがないのです。インクレチン効果が低下することで、インスリンの分泌量に異常を来したり、分泌のタイミングがずれたりして、血糖値の急激な上昇や下降が起こるのです。分泌のタイミングがずれるとは、血糖値のピークが過ぎて血糖が下がり始めたタイミングで、インスリンが遅れてピークをつけることで、余計に血糖が下がる状態を言います。

 

■健康診断の数値が正常でも、血糖値スパイクの可能性がある

この血糖値スパイクについて臨床的に見て一番気を付けないといけないのは、健康診断で測る空腹時血糖値やヘモグロビンA1cなどの数値には表れにくいため、見逃されやすいという点です。食後高血糖があるにもかかわらず、通常の健診では発見されないケースを「隠れ糖尿病」と言うことがあります。健診の数値が正常であっても血糖値スパイクが起きている可能性はあるのです。血糖値スパイクを起こしやすい人の特徴として「炭水化物中心の食事をたくさん食べる」「食べるのが早い」「運動不足」「血縁者に糖尿病の人がいる」などが挙げられます。

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