(※写真はイメージです/PIXTA)

少し前まで、「低血糖症」は糖尿病の治療で血糖降下薬やインスリンを使用している人か、インスリンを分泌する内分泌腫瘍がない限り起こらないと信じられてきました。しかし、食後に急激に血糖が上がる「血糖値スパイク」という病態があり、その反動で急激に血糖が下がる病態があることが分かってきたのです。今回は「機能性低血糖症(血糖調節障害)」について見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

「インスリンの効きが悪い」わけではない

■血糖値スパイクに「インクレチン効果の低下」が関与?

血糖値スパイクの説明を見ると、インスリンの効きが悪いこと(これがインスリン抵抗性です)が原因であるかのように書いてある文章がありますが、これは正確ではありません。血糖値スパイクは、まだ糖尿病を発症していない「隠れ糖尿病」の状態か、糖尿病の初期の状態で起こることが多いです。この段階ではまだ空腹時血糖や糖尿病の指標とされるHbA1cは正常であることが多いのです。この状態が進んで、インスリン抵抗性が強くなってくることで糖尿病が発症するのです。つまり、血糖値スパイクが高くてもまだインスリン抵抗性が起こっていないか、起こっていても軽度である可能性があるということです。

 

ここでもう一度整理しておきましょう【図表】。

 

一部にPIXTAの画像を使用して作成
【図表】食後に血糖が下がる仕組み 一部にPIXTAの画像を使用して作成

 

 

①私たちが食事をすると、糖質が胃から小腸に流れ込み、小腸内の糖分の濃度が上がります。

 

②すると、小腸にあるインクレチン分泌細胞からインクレチンが分泌されます。インクレチン分泌細胞には、腸管内の糖濃度が上がったことを感知する受容体があります。このように、腸内分泌細胞が腸管を通る栄養素やタンパク質などを感知する能力を腸管栄養センシング(Intestinal nutrient sensing)と言います(*文献1)。

 

③インクレチンは血液中を流れて、膵臓にあるインスリン分泌細胞を刺激し、インスリンが分泌されます。このときも、インスリン分泌細胞にはインクレチンを感知する受容体があります。

 

④分泌されたインスリンは、身体中の細胞にあるインスリン受容体に結合して、血糖を細胞内に取り込みます。この結果、血糖が下がります。

 

このように、糖分を摂ってから血糖が下がるまでにはいくつものホルモンが関与し、ホルモンに結合して作用を発揮する受容体があるということはとても重要です。

 

ここで、糖尿病の重要な要因であるインスリン抵抗性の話を思い出してください。糖尿病の初期段階では、血糖を下げるインスリンの分泌が低下しているよりも、インスリンの効きが悪くなっている場合のほうが多いです。欧米人に比べると日本人ではインスリン分泌能が低下している人が多いという報告がありますが、糖尿病を発症するのはインスリン抵抗性が悪くなることがきっかけになります。

 

インスリンは身体の細胞の表面にあるインスリン受容体に結合して、細胞内にブドウ糖を取り込ませる作用があります。インスリン抵抗性というのは、この受容体にインスリンが結合しても、細胞内に十分に血糖を取り込むことができなくなっている状態です。受容体のセンサーが鈍くなっているのです。

 

<*文献1>

Zietek, T. and H. Daniel. "Intestinal nutrient sensing and blood glucose control." Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2015 Jul;18(4): 381-388.

 

■「血糖コントロールに関わる細胞」の“センサー”が低下

ここからは私の推論になります。

 

色々と調べましたが、血糖値スパイクがどうして起こるのか?という疑問に対しての明確な回答は見つけることができませんでした。

 

しかし、インクレチン作用がうまく働かない状態があるということに言及している文献はいくつかあります。「インクレチン抵抗性」とでもいう状態です。小腸の細胞からインクレチンが分泌されても、膵臓のインクレチン受容体のセンサーが鈍くなっているために、十分なインスリンがタイミングよく分泌できなくなっているのです(*文献2)。

 

<*文献2>

Tura, A., et al. "Impaired beta cell sensitivity to incretins in type 2 diabetes is insufficiently compensated by higher incretin response." Nutr Metab Cardiovasc 2017 Dec;27(12): 1123-1129.

 

さらには、小腸のインクレチン分泌細胞がうまく機能しないケースもあるようです。これはインクレチン分泌細胞にある糖質レセプターがうまく反応しないことが理由です。小腸内の糖質の濃度が上がっても、受容体のセンサーが鈍くなっているために、十分なインクレチンを分泌できなくなっている可能性があるのです(*文献3)。

 

こんな医学用語はありませんが、あえて言えば「糖質抵抗性」とでも表現できる状態です。

 

<*文献3>

Rask, E., et al. "Impaired incretin response after a mixed meal is associated with insulin resistance in nondiabetic men." Diabetes Care 2001 Sep;24(9): 1640-1645.

 

私の推論を述べさせていただくならば、血糖値のコントロールに関与する細胞の受容体の感受性低下が複合的に関与することで、血糖値スパイクが起こっている可能性があるということです。

 

では、このような推論をすることに何か意味があるのでしょうか?

 

私の推論が間違っていなければ、この受容体感受性の低下に影響を与えている原因を治すことによって、血糖値スパイクが治る可能性があるということです。そして、実際にそのような症例を経験することが多くあるのです。

次ページなぜ、細胞のセンサーが低下してしまうのか?
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