(※写真はイメージです/PIXTA)

「老化は人間の運命ではなく『病気』であり、治すことができる」――これは長寿研究の第一人者デビッド・A・シンクレア博士が、自著『LIFESPAN 老いなき世界』の中で唱えた仮説です。一般に「老化=生きる上で避けて通れない変化」と考えられてきたことから、この主張に衝撃を受けた人も少なくないでしょう。では、老化とはどんな現象なのでしょうか? 最新の知見を交えて医学的に解説します。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

老化は「病気」なのか?

デビット・A・シンクレア博士はハーバード大学遺伝学教授で、タイム誌が毎年発表する「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた、権威ある人です。

 

シンクレア博士は、世界的なベストセラーになった著書『LIFESPAN 老いなき世界』の中で「老化は人間の運命ではなく『病気』であり、治すことができる」という主張をしています。この主張はあくまでシンクレア博士の唱えた「仮説」ではありますが、ハーバード大学の遺伝学の教授の唱えた仮説であるだけに説得力があります。

 

「老化は病気である」ということだけだと突飛に聞こえるかもしれませんが、老化に関する最新の知見を交えながら、論理的に自説を展開することで、後の老化に対する考え方に大きな影響を与えました。

老化は「遺伝的に決められた必然の現象」ではない

では、そもそも老化とは何なのでしょうか。

 

科学的に説明することはなかなか難しいかもしれません。何となく、私たちの身体の中に時計があって、生まれた瞬間から「死」に向かって時を刻んでいるようなイメージがあるのではないでしょうか。

 

最新の研究では、老化を決定づける「老化遺伝子」のようなものがあるわけではないと言われています。

 

■人間の細胞には、身体全体の老化を防ぐ「修復機能」がある

細胞自身は、分裂を一定回数繰り返すと分裂しなくなり、自然死(プログラム死)していきます。これを「アポトーシス」と言います。最近、細胞分裂を繰り返してもアポトーシスを起こさずに、ゾンビ状態になる細胞があることが分かってきました。これを老化細胞と言います。老化細胞はさまざまな炎症性サイトカインを放出し、私たちの身体に、慢性疾患の原因となる「慢性炎症」を起こすということが分かってきました。

 

つまりアポトーシスというのは、細胞が劣化して“がん化”するのを防ぐための一種の防御システムであると考えられます。細胞が老化してくると、細胞死することで、身体全体の老化を防いでいると言うことができます。

 

「細胞が老化」することがすなわち私たちの「身体の老化」ではないということです。

 

このように人間は、身体全体が老化しないようにできています。老化した細胞を排除する修復力があるのです。

 

つまり「老化」とは、この修復機能が低下している状態のことです。逆に言うと、修復機能を維持できれば、私たちの身体はいつまでも新生を繰り返し、理論上は老化しないということになります。

 

■これまでは「遺伝子(DNA)に原因がある」と考えられてきたが…

これまでは遺伝子が修復不能な障害を持つことで、老化すると考えられてきました。しかし現在、DNAは非常に堅固で容易には障害を受けないことが分かってきています。

 

「ジュラシックパーク」という映画をご存じの方も多いでしょう。映画の中では、保存状態が良い化石のDNAから恐竜をよみがえらせています。実際に可能かどうかは別としても、遺伝子(DNA)というのはそれほど変質しにくいということです。

 

化学に詳しい人であれば、身体の中で発生する活性酸素が、遺伝子の障害に関係するのではないのかと思う方もおられるかもしれません。確かに、活性酸素は遺伝子を障害し、がんなどの病気の原因になります。

 

がんは「多段階発がん」と言って、いくつかのプロセスを経て発症しますが、その第一ステップでは活性酸素などによる遺伝子の障害が関与しています。

 

活性酸素による遺伝子の障害の積み重ねが老化に繋がると考えられていた時期もあります。しかし、活性酸素によるダメージや遺伝子変異を人為的に増やしても、老化には繋がらないという多くの実験的なエビデンスがあります。

 

「活性酸素が遺伝子に障害を与える」ということと「活性酸素が老化の原因になる」ということとはまったく別の話なのです。

次ページ老化と関係しているのは、遺伝子そのものではなく…

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