中小企業が抱える経営課題とは
■未来への課題と取り組み
ここまで同友会の様々な活動、歴史、特徴を記してきた。取材を通じて、記者は同友会という組織の魅力についつい引き込まれた。ここまで読んでいただいた方は、贔屓の引き倒しではないかと、おっしゃるかもしれない。
そこで、いささかなりとも客観性を取り戻すために、いくつかの気になった点を最後に記しておきたいと思う。
一つは「会社の寿命30年」とよく言われるが、組織も同様、30年もたつと初期のはつらつとした息吹は失われ、目的も時代の移ろいとともに陳腐化してしまう。同友会運動も前身ともいうべき全日本中小工業協議会(全中協)結成から72年、日本中小企業家同友会(現・東京中小企業家同友会)の創立から62年、そして中同協設立から2019年でちょうど50年が経過する。同友会は、その点でどうかという点である。
例えば同友会の前身が全中協であることからわかるように、体質としては中小工業主体の団体であり、発想も大手メーカーに対する中小下請けという位置からのものが多いように見受けられる。しかし日本の産業構造が二次産業主体から三次産業へ移り、さらに情報・サービス産業のウエイトが増しつつあるいま、同友会の会員増の方向性はこのままでいいのかと思わないでいられない。
情報・サービス産業はある意味で、変化対応産業であり、経営はスピードが勝負という側面がある。メーカーのスピード感とはずいぶん違う。とすると、情報・サービス産業の経営者は同友会に魅力を感じるかどうか。経営戦略とか、成長理論とかいった思考を従来以上に積極的に取り入れる時代に入っているのではないだろうか。
また戦後から、高度成長期にはあまり問題にならなかった、人材確保。いま「ダイバーシティ経営」という言葉に切り替わっていると言っていいと思うが、同友会は女性活用にしても、障がい者雇用についても、外国人労働者の雇用にしても、正面を向いて対処しているようには見えない。
同友会の女性活用は経営者夫人や女性起業家に向いていて、会員企業の女性従業員の活用にまで一部の例外を除いて目が向いていない。同友会であればこそ、大企業でさえ手をこまねいているその点を打破すべきではないだろうか。橋本久美子氏の吉村に見るように「よい会社」への大事な条件である。
外国人労働者の雇用も同様である。外国人労働者も安く使える労働力、いつでもクビにできる働き手というよくある考え方ではなく、「大事なパートナー」という認識で積極活用すれば、中小企業であっても新たな事業展開が可能だと考えられる。
それはヴィ・クルーの佐藤全氏の試みが示唆している。組織を挙げて論議してもいいテーマである。障がい者雇用も、いまだ半分は同情心という側面、半分は政策への対応にとどまっているように見える。企業としての戦力という積極的発想に乏しいように見える。
同友会の基本理念「三つの目的」「自主・民主・連帯の精神」「国民と共に歩む中小企業をめざす」、それに「労使はパートナー」とする「労使見解」は理想主義的な面も含めて、いまだ鮮度が落ちてはいない。新入社員から幹部、経営者に至るまでの真剣な論議、学習も同様だ。だが、それでもなお刻々と変化する経済社会情勢に対応すべき部分が少なくないと最後に記しておきたい。後継者不足に対応する起業家育成なども、緊急の課題である。
最後に、本連載を書いている間中、ひとつ脳裏から離れない疑問があった。そのことについて簡単に触れておきたい。それは同友会がなぜ中小企業経営者同友会でもなく、中小企業人同友会でもなく、中小企業「家」同友会なのだろうかということである。1957年の「日本中小企業家同友会設立趣意書」にすでに「中小企業家」という言葉が登場しているが、なぜ「中小企業家」という言葉が選ばれたのかは、いくつかの中同協関連資料を探してみても、明確なものは見つけられなかった。
どういう狙いで「中小企業家」と付けられたのだろうかと思っていたところ、取材の後半である中同協の幹部の一人が、ぼそっとこう話してくれた。
彼は「私自身、設立時の古い話を知っているわけではありませんが」と前置きしたうえで、「作家、画家、作曲家、あるいは建築家のように、世間に尊敬される職業の人は『家』が付いている。設立に参加した人たちは中小企業の経営者として尊敬される存在になりたいと考えたのだと思います。尊敬される存在になるためには、先に挙げた作家や画家のように、並外れた努力が必要です。ですから同友会の経営者は、才能という点を別にして、日々学び続けることに努めているのだと思います」
これまで各地の同友会を取材し、記してきたことが、なるほどと納得できる説明だった。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー
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