地方の老舗企業の後継者の危機意識
そういう老舗企業の後継者はみんな、移り変わる時代の変化のなかで先代がやってきた経営では生き残っていけないという危機感を募らせています。
どうやって会社を内側から変えるか、新しい活力を得るかと考えたとき、必要となるのが外部の遺伝子をもつ人材です。地元以外で腕を磨き、外の世界を知っているUIターン人材を採用することで、社内に異質な遺伝子を組み込み、自社の遺伝子とぶつけ合うことで新たな展開を起こそうとしているのです。
仕事のできる二代目・三代目は、都内や海外の企業に就職して、ビジネス感覚やグローバル水準の仕事を学んでから、自社にUターンして戻って来るというパターンが非常に多いです。外で武者修行して帰って来るイメージです。
外の世界を知る二代目・三代目が自身の右腕として欲しい人材は、やはり自分と同じように都会や海外の会社で働き、都会的なセンスやスピード、知見をもって仕事のできる人です。これは新卒採用では絶対に満たすことのできない、Uターン人材ならではの付加価値です。
新潟市に本社をおく会社の二代目社長、Tさんは東京大学出身で、新卒で外資系コンサルファーム会社に就職しました。さらに米国の一流大学大学院で学び、帰国後は大手銀行の勤務を経て40歳で家業を継いだという経歴の持ち主です。
地方にもそんなすごい社長がいるのです。
彼の会社は商社でありながら食品開発・製造も手掛けるメーカーでもあります。もともとは食品卸をやっていましたが、時代に合わせて業態を変えながら今のスタイルになりました。今後も業態が変わっていくことを恐れず、チャレンジを続けていきたいとTさんは考えていますが、そのエネルギーとなっているのが中途採用した社員たちです。
以前、TさんはUターン人材について次のように語っていました。
「私の会社は今、業態を転換していく時期にあり、それに伴う新しい分野への参入においては、中途採用した社員が大きな力を発揮してくれています。例えば、長く商社として歩んできた我々にとって、製造技術や設備についての技術的蓄積は十分ではありませんでした。このたび完成した新工場の建設計画を進めるうえで、専門知識をもった人材が必要でしたが、プロジェクトの進行過程で豊かな知識と経験をもつ2名が入社してくれたおかげで、すばらしい工場を完成させることができました。設備メーカーとの交渉の際にも頼りになり、よく、あのタイミングで当社に入って来てくれたと、今でも不思議に感じています」
地方の企業にとって、Uターン人材がいかに社内の活性化に役立っているかが分かると思います。
老舗企業が頑張っている一方で、新しい企業も頑張っています。
例えば30代のSさんは、東京で起こしたアプリの会社を生まれ故郷の新潟に移転してさらに大きくなろうとしています。
「起業して約10年経って余裕が出てきたので、今は新潟を元気にしたいというミッションで、地域や経済の活性化に関わっていこうと思っています。また、会社とは別に起業家やベンチャー企業が成功しやすくなるようなサポート活動も行っています。当社以外にも会社が増えていくことで、新潟に帰って来たい人が帰って来られるようにしていきたいんです」
と、Sさんはビジョンを語っています。
大好きな地元で雇用を創出し、志を同じくする仲間を集めることで地元を面白くしようという積極性が頼もしいです。地元にUターンしたいけれど地元には自分が輝けそうな勢いのある仕事はないと思っている人に、そうではない会社もたくさんあることを知ってもらえればうれしいです。
江口 勝彦
株式会社エンリージョン 代表取締役
キャリアコンサルタント