(※写真はイメージです/PIXTA)

早期の決着が見込まれていたはずのロシアのウクライナ侵攻ですが、いまだ戦火がやむ気配はありません。複数回にわたって行われた停戦協議は暗礁に乗り上げ、ウクライナ避難民は500万人を優に超えていると言われています。では、そもそもプーチン大統領の大義はどこにあるのでしょうか? また、現状以上の被害を食い止めるために我々が優先するべきこととは? ウクライナ人国際政治学者が、ロシアの歴史と照らし合わせて解説します。

「ウクライナとロシアは一つの民族」?

プーチン大統領を支える、2つの「思想」の柱

プーチン大統領が采配をふる今回のウクライナ侵攻は、長年積み重ねられてきたウクライナに対する政治的アプローチの延長です。それを紐解く前に、プーチン大統領が行う政治の根拠となる、彼の「思想」について知らなければなりません。

 

2000年5月の大統領就任以降から貫きつづけている、プーチン大統領の基盤ともいえる「思想」には、2つの大きな柱があります。

 

1つは、大統領就任前の1991年起きた「ソ連崩壊」に対する、「自分の国の一部を奪われた」という強い憤りです。実際に2005年4月の連邦議会の演説で「ソ連の崩壊は20世紀最大の地政学的惨事だ」と発言したことがあります。

 

ソ連崩壊を機に独立していった諸国は、各々の国の意志によるものであるという捉え方に至っておらず、「ソ連崩壊はあってはならないこと。(なのに起きてしまった)」という憤りがあり、まるで自分の一部を引きちぎられたような被害者意識を、強く持っているのです。

 

2つ目は、旧ソ連諸国に住む民族は「同胞である」という仲間意識です。ここに前述の被害者意識、さらに、ロシア伝統の地政学的な大国主義が加わることで、「旧ソ連諸国は領土をロシアに返還し、ロシア人としてともに歩むのが当然である」という大義が彼のなかに誕生したのです。

 

この「思想」の最も危険なところは、領土拡大によって地政学的な、戦略的な優位性を欲しているわけはなく、また、領土がもつ資源を欲しているわけでもないところにあります。純粋に、「もとは自分のものだから、ただそれを返して欲しい」という、欲が一切排除された、ひたむきともいえる信念を出発点としている点です。

 

このように、独立した旧ソ連諸国の民族に対する「強い仲間意識」があるからこそ、ソ連崩壊に対する「強い憤り」を抱いているのです。

 

ウクライナに対してプーチン大統領が抱く、強い同胞意識

旧ソ連諸国の民族に対して、全般的に仲間意識をもつプーチン大統領ですが、ことウクライナに関しては、特別に強い思い入れをもっています。なぜなら、大統領並びに、大多数の現ロシア国民は18世紀初頭から20世紀初頭にかけて存在した「ロシア帝国」の考えを教育されているからです。

 

「ロシア帝国」時代は、「ウクライナ民族とロシア民族は1つの民族である」という考えが当たり前に存在していました。「ロシア帝国」の教えでは、ロシア民族は3つの種族で構成されています。次の図表をご覧ください。

 

図表1【「ロシア帝国」時代における、ロシア民族を構成する3つの種族】

 

「大ロシア人」が現在のロシア人。小ロシア人が現在のウクライナ人。白(はく)ロシア人が現在のベラルーシ人です。

 

いまだに3つの種族を同一視していることは、2021年7月にプーチン大統領自らの名義で発表された論文、ロシア大統領のウェブサイトにて、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」でも語られています。「同じ民族は、同じ国で、同じ国民として生きるべき」という主張を感じ取ることができます。

 

これらの「思想」を考慮すると、大統領は取引による国益を求めているわけではないことが分かります。目的はメリットではなく、是正なのです。そのため、侵攻の目的として「国益」を想定するメディアからは「非合理」と首をかしげられているのです。

 

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