事業承継で株主名簿を整理して株主を確定
対策④:種類株式の発行
経営権の分散リスク対策には、種類株式の活用も効果的です。例えば、相続財産のほとんどが自社株式の場合後継者に株式を集中させると遺留分減殺請求を招くかもしれません。しかし、後継者には普通株式、他の増族人には無議決権株式を相続させることで、そのリスクを低減できます。取得条項付種類株式や譲渡制限株式も、株式の散逸・分散を防ぐのに有効な種類株式です。
対策⑤:信託の活用
自由な設計が可能で、経営者の意思や希望を死後に反映できる信託の活用も考えられます。なかでも経営者が死亡したときの株式の承継について定めることができる「遺言代用信託」は、遺言と同様に効果が得られます。
また、認知症などで経営者の判断能力が低下した場合は、信託の権限を後継者(受託者)に移転することにしておくと、自社株式などの信託財産は契約に基づき管理されるので、経営者の意思を確実に反映することができます。認知症対策としても有効です。
対策⑥:持株会社の設立
金融機関から融資を受け後継者が持株会社を設立し、現経営者の既存会社の株式を買い取り子会社にすることで、経営権を後継者に移すスキームです。持株会社は既存会社からの配当を返済に回し、現経営者は株式を手放すかわりに現金を得ることができます。相続においては相続財産が株式ではなく現金になるので、遺産分割で自社株式の分散を防止できるのがメリットです。
ただし、株式を譲渡する際は現経営者に譲渡所得税が課税されることがあり、後継者は融資を受けて持株会社を設立するので返済リスクを負うことになります。
対策⑦:自社株買いに関するみなし配当の特例など
自社株式を相続した後継者以外の相続人は、相続税の申告期限から3年以内に自社へ株式を譲渡すると、最高税率55.945%のみなし配当課税が適用されず、税率20.42%の譲渡所得税が課税されます。
また、あらかじめ定款に定めておくと、自社株式が相続や合併などで移転したとしても、会社は自社株式の新たな所有者に対して自社株式を売り渡すよう請求できる「相続人等に対する売渡請求(会社法第174条)」を行うことができます。加えて、会社法第179条では、株式会社の総株主の議決権90%以上を保有する株主は、他の株主全員に対して保有株式すべてを売り渡すよう請求できる「特別支配株主による株式等売渡請求」を定めています。
対策⑧:名義株や所在不明株の整理
1990年の商法改正前までは、株式会社を設立するには最低7人の発起人が必要で、各発起人は1株以上の株式を引き受けなければいけませんでした。
その結果、他人名義で取得した名義株が存在し、「自称株主」が権利を主張し紛争になることがあります。将来的にM&Aなどを行おうとすると名義株主が譲渡を拒否、対価を要求することもあるようです。
これを未然に防ぐには事業承継に先立ち株主名簿を整理して株主を確定し、権利関係を明らかにしておくことです。所在不明の株主も同様で、株主権を突然主張されるリスクがあり、M&Aでは全株式を譲渡できないので、譲渡条件が不利になることがあります。所在を把握しておきましょう。
瀧田雄介
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長