(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継は会社の経営権を後継者に引き継ぐことを意味します。そのため後継者が会社を安定して経営するためには後継者への株式の集中が欠かせません。どのような方法があるのでしょうか。株式会社M&Aナビ社長の瀧田雄介氏が著書『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)で解説します。

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事業承継で自社株の分散でトラブルも

税制や保険を活用することで、資金負担を抑えながら自社株式や事業用資産を承継できることがわかりました。加えて、以下のような取り組みを進めることで自社株の分散を防止することができます。

 

対策①:安定株主の導入

税負担の問題で後継者が全株式を取得するのが難しい場合、他の相続人らに承継させた結果、自社株が分散するケースがあります。結果、事業承継後に複数の株主の間で意見が合わず、トラブルに発展する可能性が予想されます。

 

こうした事態を防ぐには、経営者の経営方針に賛同し、長期的に株式を保有する「安定株主」を導入することです。安定株主が一定割合の株式を保有すると、経営者は安定株主の保有株式と合わせて安定多数の議決権割合を確保でき、承継すべき株式の数は低下し、経営の安定化にもつながります。

 

役員や従業員持株会に安定株主になってもらうと経営に参画する意識が芽生えますし、投資育成会社や金融機関、取引先などが安定株主になり第三者の立場で経営に参画することで、客観的な視点からのアドバイスも受けられます。

 

1963年に設立された政策実施機関の「中小企業投資育成株式会社」は、これまで5000社を超える中小企業に投資を行い、長期安定株主として事業承継を支援しています。

 

対策②:遺言書の作成

いわゆる「争続」や遺産分割にまつわるトラブルを回避するのに有効なのは、先代経営者による遺言書の活用です。どの財産を誰に承継するかを明確にしておくことで、後継者に株式や事業用資産を集中して渡すことができます。作成の際は、全財産について相続人を指定しておくと遺産分割協議の必要がなくなり、反対に曖昧な表現だと誤解が生じるので、明確な内容にすることです。

 

また、遺留分を侵害する内容だと、相続人の遺留分減殺請求の原因になるので、相続財産に差がつく場合は、相続人に伝えたいことを記載する「付言事項」にその理由を記したり家族への感謝の言葉を残したりしておくと、相続人は心情的に受け入れやすくなります。

 

遺言書には自分で作成できる自筆証書遺言と、法的に有効で証人の立ち会いのもと作成し公証役場に保管する公正証書遺言がありますが、前者は定められた形式を備えていないと法的に無効になるので注意することです。

 

瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。
瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。

 

対策③:遺留分減殺請求への対応

民法上では相族財産の一定割合を相続する遺留分の権利を保障しています。よって、後継者に全財産を相続させると、他の相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められる「遺留分減殺請求」を招くかもしれません。
 
そこで、将来の紛争防止を目的に活用できるのが、経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法の特例です。後継者を含めた推定相続人全員の合意のもと、先代経営者から後継者に贈与などされた自社株式について、一定の要件を満たすことを条件に、遺留分算定の基礎になる相続財産から除外することができます。

 

瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。
瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。

 

次ページ事業承継で株主名簿を整理して株主を確定

※本連載は、瀧田雄介氏の著書『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より一部を抜粋・再編集したものです。

中小企業向け 会社を守る事業承継

中小企業向け 会社を守る事業承継

瀧田 雄介

アルク

後継者がいなくても大丈夫!大事に育ててきた会社を100年先へつなぐ、これからの時代の「事業承継」を明らかにします。 日本経済を支える全国の中小企業は約419万社。そして今、その経営者の高齢化が心配されています。2025年…

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