(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継税制は、自社株式の承継にかかる重い税負担を軽減し、中小企業の事業承継を促すための制度です。子どもや親族だけではなく、親族外承継でも適用できるのが特徴です。株式会社M&Aナビ社長の瀧田雄介氏が著書『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)で解説します。

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活用したい事業承継を促すための制度

親族内承継では、現経営者から後継者へ株式や事業用資産を贈与・相続により移転する方法が一般的に用いられます。その際は承継後の経営権を安定させるためにも、後継者に自社株式を集約させることが望ましいのですが、遺産分割協議や他の相続人からの遺留分減殺請求により、自社株式の保有者が分散するケースが見受けられます。

 

これにより少数株主が存在することで、「株式買い取りを請求された」「株主代表訴訟のリスクがある」など、経営リスクの原因になりかねません。

 

加えて、贈与税・相続税の負担に対して事業承継直後の後継者に資金力が足りず、会社の財産を納税資金に充てた結果、会社に多額の資金負担が生じ安定経営の障壁になることもあるようです。

 

また、相続が発生すると、遺産分割が終わるまで遺産は相続人の間で共有されるので、協議自体が長期化すると事業承継の実行が遅延する恐れもあります。こうしたトラブルを避けるには、先代経営者の生前中に手を打っておきたいところです。その際は、さまざまな制度を活用することで税負担や経営権の分散リスクを抑えることができます。

 

瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。
瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。

 

▶対策①:自社株の生前贈与

自社株式の分散を防ぐには、現経営者の生存中に承継を進めておくと効果的です。経営者の意思で実行できるのが、最大のメリットでしょう。

 

生前であれば税金対策も豊富にあります。代表的な税制が「暦年課税贈与」です。通常、自社株式や事業用資産を生前贈与する場合は贈与税が課税されます。税率には幅があり、基礎控除後の課税価格が200万円以下なら10%ですが、3000万円を超えると55%と累進課税になるので、株式の評価額が高いと贈与税も高額です。

 

ただし、贈与税は暦年課税として年間110万円の基礎控除があり、基礎控除額までの贈与は課税の対象外。これを超えた部分について課税されます。ただし、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産は相続財産に加算されるので、注意が必要です。

 

生前贈与を実施する際は暦年課税贈与の活用が原則となりますが、受贈者の意思で「相続時精算課税制度」を選ぶこともできます。これは、贈与者が60歳以上の父母または祖父母であり、受贈者が20歳以上かつ贈与者の推定相続人の子または孫である場合に活用することができ、特別控除額により累積2500万円までは課税されないという制度です。

 

瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。
瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。

 

特別控除額を超える部分は一律20%の税率で課税されます。贈与者が亡くなり相続が発生すると、贈与財産を相続財産に合算して、すでに支払った贈与税相当額を相続税額から控除することもできます。

 

ただし、相続時精算課税制度は一度選択すると、その後同じ贈与者からの贈与は同制度が強制的に適用され、暦年課税贈与を利用することはできません。また、贈与者の相続時には、贈与財産の価額が相続財産に合算されるので、贈与財産の価額が相続時に上がると有利に働き、下落すると不利に働きます。贈与が可能な期間や保有財産の価額の動向を考え、どちらかを選択することです。

 

瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。
瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。

 

次ページ自社株式の贈与税、相続税が猶予・免除される

※本連載は、瀧田雄介氏の著書『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より一部を抜粋・再編集したものです。

中小企業向け 会社を守る事業承継

中小企業向け 会社を守る事業承継

瀧田 雄介

アルク

後継者がいなくても大丈夫!大事に育ててきた会社を100年先へつなぐ、これからの時代の「事業承継」を明らかにします。 日本経済を支える全国の中小企業は約419万社。そして今、その経営者の高齢化が心配されています。2025年…

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