(画像はイメージです/PIXTA)

駅から徒歩3分という好立地にある戸建て住宅は、所有者の老夫婦が介護付マンションへ入所後、空き家になっていました。しかし、夫婦の末っ子が勝手に暮らし始め、相続時にほかのきょうだいへ居住権を主張しています。末っ子の主張は通るのでしょうか。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

被相続人に無断使用の場合は、単なる「不法占有」

相続問題を複雑にする要素として、相続人の1人が遺産を無償で使用している場合があります。遺産の所有者である被相続人に無断で使用している場合は、単なる「不法占有」となります。

 

このような場合は、もちろん居住権は認められません。

 

かえって、無断で無償使用していることから、使用していた期間の賃料相当額を支払う義務が発生します。

 

したがって、花子さんは、両親の承諾を得ていないので居住権はないとする選択肢①は正解です。

 

逆に、花子さんは両親の承諾を得ていなくても居住していたのだから居住権はあるとする選択肢②は誤りとなります。

問題なのはむしろ「承諾を得て無償使用していた場合」

問題なのは、両親の承諾を得ていて無償で使用していた場合となります。両親の承諾を得て無償で住む場合を「使用貸借契約」といい、無償で住む権利は「使用借権」と言います。

 

両親の承諾を得て住んでいたのだから、居住権が認められるようにもみえます。

 

しかし、承諾を得て住んでいた場合はケースバイケースとなります。

 

最高裁判例では、亡くなった両親と無償で住んでいた人が同居していたようなケースでは、被相続人が亡くなった以降も、無償で住む権利(使用借権)はあるけれども、それは遺産分割協議が成立するまでとされています。

 

本件で、両親が住んでいたままの状態で、一部を花子さんが使用していたような場合には、両親が主に建物を使用している状態が継続しており、同居しているのと同じ状態だと考えられますので、遺産分割協議成立までは住めるけれども、遺産分割協議後は自分が建物を相続する場合以外は出て行かなければならないこととなります。

 

したがって、花子さんは、両親の承諾を得ていても居住権は認められない可能性があるとする選択肢③も正解となります。

 

これに対し、両親が自分たちはもう戻ってこないので荷物なども処分して実家を全面的に花子さんが自由に使って良いと承諾したようなケースでは、その使用の目的によりますが、遺産分割協議成立後も使用できる可能性はあります。

 

本件では、そもそも、両親が介護付マンションに住んで空き家にしたままだった隙を見て花子さんが住み込んでしまったというケースなので、花子さんに居住権は発生せず、かえって、賃料相当損害金を2人の兄から請求されることとなります。

 

ちなみに、太郎さん、次郎さん、花子さんの相続分は3分の1ずつなので、賃料相当損害金が1か月24万円だとしたら、相続分に従い、太郎さん、次郎さんはそれぞれ1ヵ月あたり8万円ずつを花子さんに請求できるということとなります。
 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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