「すぐに」「気軽に」対応してくれる医師
看護師の場合、医師が常駐していない介護施設で看護師としての力を十分に発揮するには、実は、かなりの医療スキルや経験を求められるわけですが、現実はその逆になっています。したがって、老人ホームに対し医療行為能力を期待する方は、配置されている看護師の質、どのような雇用形態の看護師なのかは必ず確認するようにしてください。常勤看護師(正社員)で、日勤帯も夜勤帯もどちらも勤務している看護師というのが必要条件です。
さらに、協力医療機関のことも確認する必要があります。
先に私の結論を言います。どのような立派な経歴のある医師よりも、老人ホームの近くに居住し、いざという時は、夜間だろうとなんだろうと、ホームに飛んできてくれる医師が、老人ホームの医師としては一番有益です。
したがって、老人ホームに対し、協力医療機関の医師がどこに住んでいるのか? 夜間でも何かあれば来てくれるのか? をぜひご確認ください。有名大学の卒業だとか、有名病院に勤務していたとか、難しい手術を成功させたとか、医療界で重要視されていそうなことは、高齢者介護では不要です。高齢者介護の世界では、「すぐに」「気軽に」対応してくれる医師が優秀な医師、なのです。
参考までに、私が実際に経験し、見聞きした医師とのやり取りについて記しておきます。「老人ホームあるある」です。
夜間帯に入居者の急変があり、協力医療機関の医師に連絡をしたところ「今、何時だと思っているのか!」と叱責され、「明日かけ直せ」と言われたことがあります。
また、それに近い話として、何度電話してもつながらない、ということも、たくさんあります。いざという時は携帯電話に連絡をと言われ、携帯電話に連絡すると、留守番電話になるとか、電源が入っていないとか。日常茶飯事でした。誤解のないように言っておきますが、これらの医師は24時間対応することを入居者と約し、その対価としての報酬を得ている立場の医師の話です。
また、次のようなケースも多々ありました。夜間に急変が起こり連絡をすると、「救急車を呼んで病院に行きなさい」という指示しか出さないというパターンです。
これはこれでかまわないのですが、重要なことはこの先です。普通、良識のある医師であれば、救急搬送先の医師に対し、診療情報提供書を作成してくれます。平たく言うと、紹介状のようなものです。医師同士で、この方はこのような既往歴があり、日常的にこのような薬を飲んで経過観察をしています。今回、このような状態になった原因は××ということも考えられるので、診察をよろしくお願いします、というものです。
しかし、私が見てきた多くのケースでは、夜間、医師がこのような書類を書いて渡してくれるケースはなく、多くは、介護職員や看護職員が、今までの介護医療記録を持参し、救急車に乗り込み、搬送先の病院へ向かいます。そこで、病院の医師から「ホームの主治医からの診療情報提供書がないんだけど、お宅の老人ホームはいったいどうなっているの!」と怒られたり、文句を言われたりすることも多々ありました。
もうおわかりですね。医療従事者がいても、いざという時に、動いてくれない医療従事者は、役に立たないということが。
なお、このあたりのことをよくわきまえていて、商売のうまい協力医療機関もあります。ある老人ホームの医療機関は、近所の病院と条件交渉し、無条件で夜間の救急搬送を受けさせていました。老人ホームの介護の立場からすると、入居者が急変した場合、救急車を呼びますが、その時、受け入れ先はZ病院に決まっています、と言えるかどうかは、かなり重要な要素になります。