収穫直後はIQが上がり、収穫前はIQは下がる
■経済成長でチャンスが生まれる
マクロの経済成長がない、つまり経済のパイが大きくならないということは、チャンスがそれだけ失われることになります。とくに新規参入というか、これから社会にどんどん登場しようという意欲のある若者がチャンスを持てないということになります。
譬えていうと、マクロ経済は物凄く大きな競技場で、そこには誰でも、金持ちでも貧乏人でも、車椅子が必要なハンディキャップを持った人でも、入ってきて練習できるとします。
ところが、なんらかの理由でその競技場のパイが小さくなると、立場の弱い人たちから締め出されてしまいます。それは、チャンスが失われていくということです。ダダダーッとシャッターを下ろされてしまい、なかにいられればチャンスはあるのですが、入ることすらできないというのが、マクロ経済がダメになった状態。
勤労世代が所得を増やすチャンスを持てないと、生まれた子供たちにしわ寄せが来ます。
教育機会が非常にお粗末になる。金銭的に恵まれた家庭はしっかり塾に行かせたり、いろいろお稽古事をさせたり、家庭教師を雇うこともあるかもしれません。そうやってさまざまな教育機会が充実していきます。富裕層の子供たちはそういう環境で育てられるわけですから、非常に豊かな教育機会に恵まれるわけです。
人間というものにはいろいろ能力差があるといわれます。しかしながら、おぎゃあと生まれてから、人間の頭脳は環境によって決まる部分が非常に大きいわけです。人間の能力は天分の部分もないわけではありませんが、やはり環境に大きく左右される。
そういうわけで経済が萎縮した状態で放置しておくのは、人や社会の進歩に対して大変なマイナスになると思います。一種の犯罪ではないかとすら思います。
これはアメリカの友人から聞いた話ですが、アメリカ南部の農場、例えば大豆や綿花、砂糖など年に一回だけ収穫がある農場で、子供たちのIQを調べたそうです。すると、収穫が終わって「さあ、新しい苗を植えました」、そのあとはIQが上がったといいます。ところが収穫する数ヶ月前になると、農家は収入が少なくお金がない。
そうしたら、子供たちのIQがものすごく下がっていたとのことです。2013年8月発行の、アメリカの科学誌『サイエンス(Science)』に掲載された、貧困が脳に与える影響についての研究報告では、貧困は人の知力を鈍らせる影響があるといいます。貧困は人の心的資源を枯渇させ、問題の解決や衝動の抑制といったことに対する集中力を減少させるというのです。
将来への希望に満ちて、「さぁ、どんどん前に行こう」というメンタリティになると、脳が活性化するのです。逆に閉塞状態になってしまうと、抑うつ状態になってしまう。
また、例えばAという家庭もBという家庭も大農場で、年一回大きな作物の収入が同じようにあっても、Aは父母とも非常に堅実で安定しているけれど、Bは父親がアル中でよく暴れる。でも母親がすごいしっかり者でなんとか家庭を支えているという世帯差や個人差はあるでしょう。