「理想の睡眠時間」が取れなくても大丈夫…スタンフォード大学医学部教授が教える「黄金の90分」 (※写真はイメージです/PIXTA)

慢性的な不眠で悩んでいる。睡眠不足や睡眠障害が不調や病気を引き起こし、クオリティ・オブ・ライフを下げることは明らかです。良い睡眠を取るには時間の確保は必要ですが、単に長ければいいというものではありません。脳と体をしっかり休めるためには、どうすればよいのでしょうか? 睡眠研究の第一人者、スタンフォード大学医学部精神科教授・西野精治氏の最新刊『スタンフォードの眠れる教室』から「黄金の90分」について解説します。

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Q1.「黄金の90分」とはなんですか?

⇒A. 体のメンテナンスを行う、一番深い眠りの時間です。

入眠した直後のおよそ90分間は、一番深いノンレム睡眠が出てくる「黄金の90分」です。なぜ黄金かといえば、このおよそ90分の間に、次の5つの重要な生理現象が一番活発に行われているためです。

 

1、脳と体の休息

2、記憶の整理・定着

3、ホルモンバランスの調整

4、免疫力アップ

5、脳の老廃物を取る

 

1950年代まで、「睡眠の役割は、体を休めるだけだ」といわれていました。眠気の解消がせいぜいと軽視されていたので、睡眠学は自然科学としての魅力的な研究対象ではありませんでした。体を休めるだけでいいなら、横たわっているだけでも休めます。しかし、睡眠の休息はより能動的な「脳と体の中のメンテナンス」です。

 

■「睡眠中にしかできないメンテンナンス」がある

日中も体や脳はある程度は修復されていますが、睡眠中にしかできないメンテナンスもあります。

 

たとえていうなら、営業中のレストランは料理や接客など「やるべき仕事」で手一杯で、清掃や壊れた器具の修理にまで手が回りません。

 

それと同じで、日中の体と脳は大忙し。筋肉を動かしたり、考えたり、食べ物を消化したり…。多様な活動にほとんどのエネルギーが費やされています。だからこそ、深く眠る「黄金の90分」に、脳も体も深い休息を取り、メンテナンスを行うことが必要となります。

 

出所:西野精治著『スタンフォードの眠れる教室』より
[図表1]睡眠のパターンと睡眠の役割 「黄金の90分」とは? 出所:西野精治著『スタンフォードの眠れる教室』より

 

明け方に多いレム睡眠は、夢を見ることでわかるように、体が寝ていても脳は起きている状態。脳のメンテナンスというより、記憶の整理整頓、あるいは起きる準備も行っています。

 

一方ノンレム睡眠中は休息の睡眠。心拍数も下がり、自律神経のうち、交感神経の活動が低下します。そのため、単なる休みではなく「血管も含めた脳と体の休憩」となります。夜間、交通量が少ない道路で工事が行われるようなもので、傷んだ血管も修復されます。逆にいえば適切な睡眠を取らないでいると、寝ている間も血圧や心拍数が下がらず、メンテナンスされないまま昼も夜も酷使された血管は、ボロボロになっていきます。その結果、血管脳出血や心筋梗塞という血管性の病気の危険が高まるのです。

 

睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害があったり、健康な人でも睡眠負債がたまっていたりする場合は、就寝中に血圧が下がりません。血圧は、本来なら覚醒時より睡眠時のほうが低くなるものなのに一定に保たれてしまうため、やはり血管を傷め、動脈硬化につながり、虚血性心疾患や、脳の血管障害の頻度も高くなります。

 

日本人の死因第2位の心疾患、第4位の脳血管疾患に直結しますので、40代からは血管のメンテナンスのために「黄金の90分」を活用してほしいものです。

 

■コロナ感染予防のためにも「黄金の90分」で免疫力アップ

「黄金の90分」には成長ホルモンが大量に放出されます。

 

「それって小中学生までの話でしょう? もう成長する年齢でもないし」

 

そんな誤解をしている人がいますが、成長ホルモンは一生、分泌されます。加齢とともに量はガクンと減っていき、体は成長しなくなるのはその通りですが、このホルモンは免疫にも関係しているのです。「この歳じゃ背も伸びないし、成長ホルモンはいらない」というのは、あまりにももったいない話です! 成長ホルモンは新陳代謝の源ですので、肌の調子が整うといった効果も期待できます。もちろん骨の強化にも役立つと思われます。皮膚も骨も、絶えず古いものが新しいものに置き換えられています。これは歳を取っても同じです。

 

2021年4月、私も創業者の一人であり研究顧問を務める株式会社ブレインスリープで1万人を対象としたオンライン調査を行ったところ、新型コロナウイルス感染症に罹患した人は、睡眠の質が悪いことがわかりました。特に睡眠時無呼吸症候群の患者さんは睡眠の質が悪く、感染リスクも高いことが明らかになりました。

 

睡眠時無呼吸症候群については次回に解説しますが、新型コロナ感染にも大きなリスクになりますので、「ウイルス感染を防ぎたい」と願うのであれば、「黄金の90分」を確保するためにも専門治療を勧めます。

 

出所:西野精治著『スタンフォードの眠れる教室』より。ブリュッセル自由大学のVan Coevordenらの図を改変(1991年)
[図表2]成長ホルモンの分泌は最初のノンレム睡眠がカギ! 出所:西野精治著『スタンフォードの眠れる教室』より。ブリュッセル自由大学のVan Coevordenらの図を改変(1991年)

医師、医学博士
スタンフォード大学 医学部精神科 教授
スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長
日本睡眠学会専門医、米国睡眠学会誌、「SLEEP」編集委員
日本睡眠学会誌、「Biological Rhythm and Sleep」編集委員 

1955年、大阪府出身。大阪医科大学卒業。1987年、大阪医科大学大学院4年在学中、スタンフォード大学精神科睡眠研究所に留学。突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」の原因究明に全力を注ぐ。2000年にはナルコレプシーの発生メカニズムを突き止めた。2005年にSCNLの所長に就任。2007年、日本人として初めてスタンフォード大学医学部教授となる。

睡眠・覚醒のメカニズムを、分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究している。

33万部のベストセラーになった著者の初作、『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)は、10ヵ国語に訳され、世界中でも広く読まれている。2020年9月に文藝春秋より刊行された『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』。スタンフォード大学教授だからこそ発信できる希少情報が話題に。

コロナから3年、最新のデータを踏まえ、改めて睡眠を語る最新作『スタンフォードの眠れる教室』(幻冬舎)、2022年4月、好評発売中。

※西野教授の理論をもとに開発された枕も好評。「BRAIN SLEEP PILLOW」

著者紹介

連載スタンフォード大学医学部教授が教える「眠り」の正解

スタンフォードの眠れる教室

スタンフォードの眠れる教室

西野 精治

幻冬舎

寝られなくても大丈夫! 科学的エビデンスで長年の悩みを解決。睡眠の誤った常識を覆す、眠りの研究最前線とは? 30万部を突破した前著『スタンフォード式 最高の睡眠』から5年。睡眠研究の権威・西野精治氏による待望の…

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