コーヒーを飲んでも“居眠り”…昼間の「異常な眠気」の正体 (※写真はイメージです/PIXTA)

充分な睡眠をとっているはずなのに、日中も耐えがたい眠気に襲われる。コーヒーなどのカフェインを摂っても眠気が覚めない。会議などの眠ってはいけない場面でも、気付いたら居眠りしている…。こんな「異常な眠気」に困っている人はいませんか。睡眠研究の第一人者、米国スタンフォード大学医学部精神科教授・西野精治氏が、知られざる「過眠症」について解説します。

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 日中に「耐えがたい眠気」を生じる病気、過眠症

みなさんの中で、不眠症という言葉にはなじみがある方も多いと思います。では、「過眠症」という言葉を聞かれたことはあるでしょうか? 脳(中枢)に原因があって、日中の眠気を特徴とする睡眠障害で、難しい言葉では「中枢性過眠症」とよばれます。

 

代表的な疾患はナルコレプシーです。詳細は後述しますが、ナルコレプシーは眠気以外にも非常に奇妙な症状が出現し、映画などにもたびたび取り上げられましたので、ご存じの方も多いと思います。

 

中枢性過眠症では、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠を妨げる病気や、「睡眠負債」とよばれる極度の睡眠不足がないにもかかわらず、日中に激しい眠気が現れる睡眠障害で、中枢神経系の機能的な異常により眠気が生じていると考えられています。ナルコレプシー以外にも、より頻度は少ないですが、特発性過眠症、クライネ-レビン症候群(反復性過眠症)等があります。

過眠症の代表格「ナルコレプシー」の症状

ナルコレプシーは1000人から2000人に1人にみられる比較的まれな病気で、10歳代で発症することが多い疾患です。昼間の耐えがたい眠気と、食事中や会話中など、通常は眠ることがない状況における居眠り(睡眠発作)を特徴とする慢性の睡眠障害です。

 

ナルコレプシーでは、情動脱力発作(カタプレキシー)と呼ばれる全身の筋肉の一時的な脱力伴うことがあります。大笑い、驚き、怒りなどの強い感情を引き金として突然生じ、数秒から数分で自然に回復します。通常、その間の意識は保たれていて、本人はまわりで起こっていることが認識できます。

 

脱力の程度は様々で、呂律が回りにくいといった体の一部に生じる脱力感から、完全に床に崩れ落ちる脱力まで程度に差はありますが、情動脱力発作は非常に奇妙な症状で、ナルコレプシー以外ではみられません。似た症状としては失神やてんかん発作がありますが、ナルコレプシーの情動脱力発作では、意識消失はなく、発作中に脳波異常もみとめません。

 

そのほか、一般では「金縛り」と表現される、寝入りばなもしくは目覚めたときに、体を動かせず声を出せない状態が数秒から数分続く睡眠麻痺や、人や動物が寝室にいるかのように感じる幻覚といった症状が頻回に出現することもナルコレプシーの特徴です。みなさんの中でも、「金縛り」を経験されたことがある人もおられると思いますが、健常人でも2-3割の人でみられますので、それほど心配する必要はありません。

 

これらの症状はレム睡眠のときに生理的に生じる、筋肉の脱力や夢見体験がレム睡眠と乖離して、覚醒時や入眠時に出現すると考えられています。ナルコレプシーは、多くは思春期に発症し、徐々に症状が進展して、数年かけて症状が出そろい長期間持続します。従って、ナルコレプシーの診断がくだされるまで数年も要することがあり、その間「怠けて、居眠りしている」など非難されることもあり、周囲から病気の理解が得られない場合もあります。

ナルコレプシーの原因は?決して「怠け」ではなく…

ナルコレプシーの原因は、覚醒を維持し、レム睡眠の出現を押さえるのに必要な神経ペプチドであるオレキシンを作り出す神経細胞が、思春期あたりに、自己免疫の機序により変性・脱落することにあると考えられています。ナルコレプシーは、情動脱力発作、およびオレキシン神経細胞の脱落(髄液で測定可能)の有無により、2つのタイプに分類されており、それぞれ病気の発症の機序は異なると考えられています。

 

過眠症状は怠けによるものではなく、覚醒が長く維持できないから生じると考えられていますが、睡眠時間の不足によっても症状が悪化するので、夜間睡眠をより多く確保したり、計画的昼寝の時間を確保したりできるよう、周囲の理解のもと睡眠時間を増やすためのサポートが大切です。それでも症状が耐えがたい場合は、覚醒を引き起こす薬剤の服用が必要になる場合も少なくありません。また脱力発作には、レム睡眠を押さえる薬剤が有効なことが多いです。

 

過眠症の診断がつく前に、患者さんの多くは、カフェインの入っているコーヒーなどで眠気を抑えようとしますが、コーヒーのカフェイン程度では、病的な眠気には無効なことが多いです。

 

いずれにしろ、睡眠専門医による診断・治療が必要となります。現在の薬物治療は対症療法ですが、脳内で不足しているオレキシンを補うような根治につながる治療法も現在開発中で、今後の成果が待たれます。

ナルコレプシー以外の過眠症について

特発性過眠症や、反復性過眠症は、さらに頻度の少ない病気ですが、昼間の眠気と居眠りを主症状とし、居眠りは、1時間以上も続き、目覚め後はすっきりと覚醒できずに眠気が持続し、リフレッシュ感が乏しいのが特徴です。夜間睡眠が10時間以上と著しく長い場合があります。

 

反復性過眠症非常の初発は、ほとんど10歳代で、男性の頻度が高いです。症状強い眠気を呈する時期(傾眠期)が3日から3週間持続し、自然に回復してまったく症状がなくなりますが、その後、不定の間隔で傾眠期が繰り返し出現します。

 

ナルコレプシーも含め、これらの過眠症は思春期に発症することが多いのですが、思春期は、学業だけでなく友達付き合いなども大事な時期ですから、こういった健全な日常の生活を妨げる睡眠障害があると、その後の生活にも悪影響を及ぼす可能性があります。よって早期発見、早期治療が重要です。学校や家庭で、お子さんに過眠症の症状がないか、眠気のせいで日中生活に支障が出ていないか注意を払うことが大切です。

 

睡眠時間の長さには個人差があり、昼間の眠気も色々な要因に影響されますので、過眠症の診断は容易ではありません。しかし、夜間充分な睡眠を確保していても昼間の眠気が強い場合は、こういった中枢性過眠症の可能性もありますので、早期に睡眠専門医に相談することが大切です。

 

 

西野 精治

医学博士、医師

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL) 所長

スタンフォード大学 医学部精神科 教授 医学博士 医師
スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長
日本睡眠学会専門医、米国睡眠学会誌、「SLEEP」編集委員
日本睡眠学会誌、「Biological Rhythm and Sleep」編集委員

1955年、大阪府出身。大阪医科大学卒業。1987年、大阪医科大学大学院4年在学中、スタンフォード大学精神科睡眠研究所に留学。突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」の原因究明に全力を注ぐ。2000年にはナルコレプシーの発生メカニズムを突き止めた。2005年にSCNLの所長に就任。2007年、日本人として初めてスタンフォード大学医学部教授となる。

睡眠・覚醒のメカニズムを、分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究している。

33万部のベストセラーになった著者の初作、『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)は、10カ国語に訳され、世界中でも広く読まれている。最新の著書は、2020年9月に文藝春秋より刊行された『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』。スタンフォード大学教授だからこそ発信できる希少情報が話題に。

※西野教授の理論をもとに開発された枕も好評。「BRAIN SLEEP PILLOW」

著者紹介

連載現役医師が解説!様々な「カラダの不調」への対処法

※本記事は、最先端の「自分磨き」を提供するウェルネスメディア『KARADAs』から転載したものです。

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