体温は下げにくいが、「室温」ならコントロール可能
体温は気温によって容易に変動しませんが、快適な室温が睡眠にいいことはわかっています。熱帯夜や極寒の中ですやすや眠りにつくのは無理ですから、皆さんも実感できるはずです。
快適な温度は一般に「冬は19℃、夏は25℃」といわれていますが、個人差があります。通常、外気と温度差が大きいとその影響も出ますので、私の場合、冬は22℃で夏は24℃に設定。これは私が出張でホテルに泊まる際の目安であって、自宅で日々やっているわけではありません。19℃や18℃でも少し寒いですが充分寝られます。
地球温暖化が懸念される今、健康な人間が1年365日、快適な眠りのためにエアコンをつけて良いのかという問題もあるし、光熱費の問題もあるでしょう。そのあたりは一人ひとりの判断になると思います。
室温調節が難しければ「寝具」を工夫
室温をコントロールできない場合、人類が生み出した偉大な知恵――寝具の出番です。ただし、入眠で大切なのは体温の変化。「温かさの維持」ではないのです。
「じゃあ、寝つきが良くなる寝具はどんなものですか?」と聞かれますが、これがまた難しい。
私がいるアメリカ西海岸は起業家が多いシリコンバレーを擁し、研究の場はスタンフォードですから、まわりにはそういう開発に取り組んでいる人たちが大勢います。
いくつか見せてもらい、中には「不眠症の治療に効果があるだろう」と思えるものもありますが、「寝る前にベッドのこの部分にお湯を入れて足湯にし、レバーを押してセットして…」とやたら複雑な装置が多いのです。「ドラえもん」がそんな発明品を取り出したら、のび太は「面倒くさくてイヤだ!」と駄々をこねるでしょうし、毎日のことであれば私も遠慮したいところです。
そんな中、スタンフォードの生理学研究者が面白い手袋を開発しました。手袋といっても大きなもの。内側に吸引装置がついており、手を入れると装置内を吸引して陰圧をかけるので、手の血管が拡張します。血管が広がった手足であれば、その部分を温めると深部体温はすぐに上がり、冷やせばすぐに下がることがわかっています。
運動中や運動後にこの手袋を使うと疲労回復に役立つというもので、アスリートのために開発されました。その技術を応用してスタンフォードとアメリカ軍の共同研究で同じような機能のブーツを開発しました。中東の砂漠での戦闘の際、疲労回復の目的で開発されていましたが、それ以上は軍事機密になりますのでここでは割愛します。
この手袋やブーツは深部体温をコントロールできるので入眠にも役立つと思いますが、そういった質問が出るといつも開発者は、入眠時の装脱着、スイッチオンなどの複雑な操作は入眠の妨げになると答えていました。私も全く同感です。
簡単なのは「通気性の良い枕」を使うこと
寝具で体温をコントロールをするのは難しいのですが、入眠の時には皮膚から熱が逃げて体温が下がります。できるだけ通気性のいい、熱のこもらない寝具を選びましょう。特に日本の夏は蒸し暑いので、通気性の良い寝具でうまく熱を逃がしてください。
手軽に効果が期待できるのは枕です。高さや硬さなどは好みがありますが、睡眠時無呼吸症候群を避けるために、気道を曲げて閉塞させない枕を選びましょう。高すぎれば気道が曲がり閉塞、低ければ気道が確保できても、頸部の不自然な伸張で後頭部の痛み、頭が重い、肩甲骨あたりのこりなどが見られることもあります。
また、あまり知られていないことですが、脳の温度は深部体温と連動して変化しています。すなわち、就寝時には頭の温度も下げる必要があるのです。深部体温だけでなく脳の温度も下げれば入眠しやすく、一番深いノンレム睡眠が出てくる「黄金の90分」に突入できると考えられますが、そういった点に注目して開発された枕には出会えませんでした。
暑い夜に冷却剤でできた枕を使うこともありますが、温度差が極端すぎます。その点、通気性の良い枕であれば適度に涼しく、熱はこもりません。湿気がこもらない素材であれば放熱効果があり、汗の湿気で不快感が増すということもありません。「高すぎず、熱と湿気がこもらない枕」を探してみましょう。
私が研究顧問を務めるブレインスリープでも、優れた通気性で頭を冷やす枕「Brain Sleep Pillow(ブレインスリープピロー)」をはじめとする寝具の販売をしています。「黄金の90分」を生み出すテクノロジーを凝縮して開発されたものなので、選択肢の一つに加えてみても良いかもしれません。
西野 精治
医師、医学博士
スタンフォード大学医学部精神科教授
株式会社ブレインスリープ 創業者兼最高研究顧問
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