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「睡眠中」にも心不全のリスクが潜んでいる
心不全発症につながるリスクに、「睡眠時無呼吸症候群」があります。
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりして体に低酸素状態が発生する病気です。原因はさまざまですが、いちばん多い原因は肥満です。太っている人が横になると空気の通り道である気道が狭くなり、呼吸がしづらくなることがあります。この状態がひどくなると低呼吸や無呼吸になり、睡眠時無呼吸症候群を発症してしまうのです。
肥満のほかにも、首が短くて太い人や顎が小さい人なども、もともと気道が狭い構造になっているため、睡眠時無呼吸症候群になりやすいとされています。
睡眠時無呼吸症候群は減量したり就寝中の姿勢を変えたり、重症の場合は睡眠中に特別な装置を付けて気道を確保したりすることで改善できますが、症状を放置しておくと、日中に耐え難い眠気に襲われたり集中力が続かなくなったりして、日常生活に影響が現れます。それだけでなく、睡眠時無呼吸症候群は高血圧や心不全など循環器系の障害をはじめ、さまざまな合併症を引き起こすことが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群がそうした病気を引き起こすのは、睡眠中に呼吸が停止することで各臓器への酸素供給が滞ってしまい、いろいろな臓器が機能不全を起こすからです。
また、交感神経の問題もあります。睡眠は本来、脳と身体を十分休ませるために必要なものです。しかし、睡眠中に無呼吸が繰り返されると、脳も身体も断続的に覚醒した状態になり、交感神経が亢進することで血圧が上昇してしまいます。血圧が高くなると血管に負担が掛かり、血管の内壁が傷ついたり硬くなったりしてしまいます。やがて動脈硬化を引き起こし、心不全などを発症するリスクになります。
さらに、低酸素状態は身体にとって生命の危機ですから、心臓は一生懸命酸素を取り入れようとして急激に心拍数を上げます。その結果心臓に負担が掛かり、心機能の低下を招
いてしまいます。
このように、睡眠時無呼吸症候群は、心不全を含むさまざまな病気のリスク要因となります。研究により、不整脈や心不全では約50%、薬が効きにくい難治性高血圧では83%の患者が、睡眠時無呼吸症候群を合併していることが分かっています【図表】。
就寝中に無呼吸や低呼吸の状態になっているかどうかは、自分では気づきにくいかもしれません。多くの人が家族にひどいいびきを指摘されたり日中耐え難い眠気に襲われたり、起床時に頭痛や体のだるさを感じたりすることがきっかけとなって、病院で診察を受けています。
歯や口の中の問題、「歯周病」も心不全の一因
心不全の意外な原因として注目してもらいたいのが歯周病です。
「歯周病といえば、歯や口の中の問題でしょう? それがどうして心不全と関係があるの?」
そう考える人も多いと思います。確かに歯周病は口の中の問題です。
歯と歯茎の隙間(いわゆる「歯周ポケット」)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こした状態を歯周病といいます。ひどくなると、歯を支える骨を溶かし、歯を失う原因になる恐ろしい病気です。
さらに恐ろしいのは、歯周病は歯のトラブルにとどまらないということです。高血圧や糖尿病、さらには心不全など、命に関わる病気のリスクとなることが分かっているのです。
なぜ、歯周病がこれらのリスクになるのかといえば、歯周病は細菌感染による炎症だからです。歯周病菌の毒素や炎症関連物質が増えると、それらは歯肉の毛細血管から血流に乗って全身に運ばれ、インスリンの働きを悪くします。その結果、血糖のコントロールがうまくいかなくなり、糖尿病が悪化しやすくなるのです。
また、歯周病は高血圧のリスクにもなります。歯周病にかかっていると血圧を下げる薬が効きにくくなるため、高血圧の状態が続き、動脈硬化を引き起こしたり、心不全を招いたりします。さらに最近の研究で、歯周病菌が血管に入り込むと心筋梗塞や脳梗塞が起こることがある、と分かりました。
これほど恐ろしい病気であるはずなのに、歯周病を蔑(ないがし)ろにしている人も多いのが現状です。血圧や体温をこまめにチェックしたり、減塩や減量を心掛けたりする人は少なくありません。それらと同じく、きちんとした口腔ケアも、全身の健康を守るためにはとても大切なことなのです。
大堀 克己
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
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