【関連記事】銀座の天ぷら職人が、跡取り息子に「何も教えない」深い理由
後継者選定で真っ先に考えるのは親族
「親族内承継」について掘り下げます。
近年はその割合が減っているものの、親族内承継は事業承継のもっともメジャーな方法です。それを示すかのように、「中小企業白書」(2021年版)によると、後継者の決まっている企業の7割近くは、現経営者の親族への承継を予定していることがわかります。また、後継者を選定する際の優先順1位でもっとも高いのは「親族」(61.1%)で、2位の「役員、従業員」(25.0%)を大きく引き離す結果となりました。
ただし、優先順位2位では「役員・従業員」(54.2%)がもっとも高く、経営者からすると身内とも言える存在に事業をつなぎたい心情をうかがうことができます。いずれにしても、事業を引き継がせたい相手のトップバッターは親族と言って間違いなさそうです。
ただし、一昔前なら家業を継ぐのは長子というイメージでしたが、いまは個人の意思を尊重する時代。長男だからといって必ずしもたすきを受け取るとは限りません。
性別や生まれた順番に関係なく、やる気や実務能力の観点から後継者を選定することが、事業の持続性につながります。息子や娘だけではなく、娘の配偶者、さらには親戚など、幅広い人脈から探すことで、経営に興味を持つ人物が見つかる可能性があります。親族内承継は後継者探し・選定が第一歩です。
■親族内承継のメリット・デメリットとは?
親族内承継のメリット・デメリットをおさらいします。
非上場の中小企業の場合、親族のなかから後継者を選定することに対して、否定的な意見は見られない傾向にあります。むしろ、よいことか悪いことかは抜きにして、「家業は子ども(親族)が継ぐもの」というイメージがあるので心情的に受け入れやすく、従業員や取引先から納得を得られるのは大きなメリットです。
また、親族から選ぶのであれば後継者候補を早くに擁立しやすく、教育などのためにかける時間を長く確保できます。仮に社会人になるタイミングで決まっていたら、同業他社や異業種で経験を積んでから自社に転職し、さまざまな部署や役職を経て社長交代に至るなど、入念な準備期間を有効に使うことができるでしょう。
相続などにより財産や株式を後継者に移転できるので、税負担への対応がしやすく、所有と経営の分離を回避しやすくなるのも利点です。
一方、親族内に経営者としての資質と意欲、能力を併せ持つ後継者候補がいるとは限りません。資質や能力に欠けた人物に次代を任せたところで、本人はおろか、従業員など周りの人にとっても不幸な結末を迎える恐れがあります。社内から反発が起きて大量離職に至っては元も子もないでしょう。
また、意欲に関して、「継いでくれるに違いない」という親の思い込みは禁物です。子どもには子どもの人生があり、都会で暮らしているのに地方に戻って家業を継ぐとは限りません。意識のミスマッチを避けるためにも、早い段階から後継者候補と対話を重ね、意思を確認しておくことが肝心です。
反対に、複数の子どもが後継者に名乗りを上げた場合も、最終的に誰を次期社長に据えるかは悩みどころです。
必ずしも兄姉が優秀とは限らず、弟妹の方が資質に富むこともあるでしょう。後継者選びが親族内の争いに発展する恐れもあるので、納得を得られる選定が求められます。相続人が複数いる場合は後継者以外の相続人への配慮が必要で、経営権をどのように集中させるか、工夫を凝らさないといけません。
このように、親族内承継にはよい面・悪い面の両方があります。ただし、早い段階から対策に取り組み、順序立てて事業承継を進めていくことで、ある程度のデメリットを軽減できるのも確かなことです。本連載ではそういった点も述べていきます。