後継者の育成で重視すべきこととは?
■後継者の教育が事業承継の成否を握る
事業承継では株式や資産、経営権の移転に注目されがちですが、もっとも大事なのは後継者の教育です。次期経営者として会社をけん引するには現場に対する知見は言うまでもなく、営業や財務、労務に関する幅広い知識が求められます。
何よりも、企業理念や経営方針、社内外からの信頼、人脈といった知的資産を身に付け、その能力を発揮するには、時間をかけた学びが必要です。「後継者の育成方法について重視すること」を経営者に尋ねたところ、「社内での実務的な勤務経験」「経営に関する経験」「社外での勤務経験」を選ぶ人は多く、いきなり経営を任せるのではなく、社内外での実務経験や現経営者のサポートを重視する声が目立ちました。
例えば、社内教育。現場を知ると同時に会社特有の運営方法を学ぶことができ、従業員や取引先との信頼関係や一体感を築く、格好の場になります。後継者候補としてのお披露目を兼ねますから、関係者も次期社長を受け入れやすい環境になることも期待できるでしょう。現経営者とともに働きますから、経営理念や経営に対する姿勢、振る舞い方や働き方を直接教えることも可能です。
具体的には各部門をローテーションさせて会社全般の経験と必要な知識を習得させ、一般社員から管理職、役員とステップアップさせることで役職に対する理解が深まります。
また、責任のある地位を与え権限を委譲させると、意思決定やリーダーシップを発揮する勉強になり、経営者としての自覚も芽生えるに違いありません。現経営者の薫陶を受けることで、経営上のノウハウや業界事情を理解し、経営理念も浸透することになります。
■社外教育では多様な経験を積みセミナーなどで体系的な教育を受ける
社外教育の目的は、他社での勤務経験を通じて、社会人としての自覚を醸成させることが考えられます。実家で働くと、甘えが出る可能性がありますが、社会に揉まれることでタフになり、自社にはない経営手法が学べ、社内にはない人脈の形成にも役立つでしょう。
何より、広い視野で自社を客観的に見る目を養うことで、承継後の成長に一役買う可能性も期待できます。いわゆる修行ですが、同業他社で働き学ぶ方法もあれば、異業種で学んだことを自社に持ち帰ってイノベーションにつなげるといったこともあります。
完全な他社ではなく子会社や関連会社で勤務すると、現経営者と適度な距離で経営について学ぶことができ、経営を任せて責任感を持たせる、資質や能力を磨くという方法もあります。
また、商工会や商工会議所、金融機関などが主催する「後継者塾」や「経営革新塾」、民間のコンサルティング会社による次世代リーダー養成講座に参加したり、中小企業大学校といった大学などの教育機関で学んだりしても、経営に関するアカデミックな知識を体系的に身に付けることができます。近年はオンラインのカリキュラムもあり、場所を選ばずに受講することも可能です。
後継者教育の場は社内外にあり、外部機関によるセミナーを活用すれば、実務経験や経営ノウハウ、企業理念など社長として求められる能力を、総合的に身に付けることができます。後継者自身とも相談しながら、その人に合った手段を使い、育成していきましょう。これにより、承継後の会社の維持・成長が決まります。
瀧田雄介
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長