脳・心臓疾患の労災補償請求は年間約850件
■職場の定期健診の結果を活かして、社員の健康を守る
職場で社員全体の健康保持・増進を考えるときは、社員一人ひとりの個別の健診結果を見るわけではありません。個別の対応が必要なこともありますが、まずは個々のデータを集計し、職場全体の健康状態の傾向や特徴を把握することが第一歩です。
職場の定期健康診断の結果には、その職場にある潜在的な課題や健康リスクが表れています。例えば定期健康診断で中性脂肪やコレステロールの異常値のある人がとても多いとします。
それは単に脂っこい食事が好きな人が多いとか、食べ過ぎ・飲み過ぎの人が多いというわけではありません。その職場の働き方によって心身に負荷が掛かっていたり、不規則な生活にならざるを得なかったりして、結果的に脂質異常が増えている可能性もあります。そこは個人の責任というだけで済まさず、会社として改善策を考えていかなければ、社員の健康を守ることはできません。
「うちの会社は中年以上の社員が多いから、健診で異常のある人が多くても仕方がない」という反論もあると思います。
確かに、社員の年齢構成や性別の割合などによって健康診断結果は変わってきます。年齢でいえば、社員の平均年齢が高くなるほど有所見率や持病をもつ人の割合が高くなるのは事実です。ですが、年齢的には30~40代が中心でも、いわゆるブラック企業と呼ばれるような職場、長時間労働が常態化しているような職場では、異常値を示す人の割合は高くなることもあります。
問題になるのは、会社が自社の社員たちの健康状態と働き方をしっかり把握し、リスクの高い社員もそうでない社員も、誰もが健康に働けるように必要な配慮や措置を行っているかどうか、という点です。
会社には労働者が生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならないという「安全配慮義務」が課されています(労働契約法)。「年だから」「人手が足りないから」となんの対策もしないままで、40~50代の社員をそのまま働かせ、ある日突然くも膜下出血で倒れたりしたら、最悪の場合、会社が社員本人や家族から、安全配慮義務違反で訴えられることもあります。
労働者の脳・心臓疾患による労災補償請求は2016~20年の5年間で計4262件、平均して年約850件に上っています。
20年度の請求数を業種別にみると、労災請求が多いのは運輸・郵便業(158件)、卸売業・小売業(111件)、建設業(108件)、続いて製造業、医療・福祉、宿泊業・飲食サービス業などとなっています。年齢別では20~30代が計7.0%、40代で26.0%、50代で33.7%、60歳以上で33.3%となっています。
つまり、年齢の高い社員が多い・若手が多い、男性が多い・女性が多い、肉体的な負担が高い・デスクワークが中心、労働時間が長い・短いなど、さまざまな職場の業務内容や働き方、そこで働く社員の特性に合わせて、必要な対策を考えていくことが重要になるのです。