(※写真はイメージです/PIXTA)

健診結果の正しい読み解き方は意外に知られていません。総合判定のA(異常なし)、B(軽度異常)、C(要再検査・生活改善)、D(要精密検査・治療)、E(治療中)といった5段階です。産業医の富田崇由氏がコストゼロからできる健康経営について解説します。

健康診断の判定がBやC…安心できない

■健康診断の判定がBやCでも、安心していてはダメ

 

健診結果の正しい読み解き方は意外に知られていないように感じます。

 

例えば、健診結果には「基準値」というものがあります。数値がここから外れていると健診結果に異常を示すマークがついて焦りますし、数値がこの範囲内であれば「正常だった」とホッとします。それはだいたいの場合間違いではないのですが、より正確にいうと基準値=正常値ではありません。

 

基準値とは健康な人の検査データから上端と下端を除いた中央の95%の人がおさまる範囲を指しています。統計的には基準値を外れた人のなかから病気がみつかる可能性が高いのは確かですが、健康でも基準値には当てはまらない人が5%ほどいるのも事実です。ですから、検査値が基準値内かどうかだけで正常・異常が決まるわけではありません。個々の数値は健康状態を判定する一要素であり、「参考基準値」「正常参考値」などと表現される場合もあります。

 

また各検査値から医師が総合的に判断して決定するのが総合判定です。

 

総合判定の判定区分も健診施設によって少々異なりますが、日本人間ドック学会は2022年4月より標記を改定すると発表しました。A(異常なし)、B(軽度異常)、C(要再検査・生活改善)、D(要精密検査・治療)、E(治療中)といった5段階です。

 

ポイントは、Cが「要経過観察」から「要再検査」になった点です。これまで一般の人は判定がDでなければ「ああ、良かった」と安心してそれで済ませてしまいがちでした。しかし、良いほうから2番目のBでもそれまでと同じで何もしなくていいというわけではありませんし、Cの「要経過観察」もただ漠然と様子をみていればいいというのではなく、結果を受け取ってから「1ヵ月以内に医療機関で必要な検査を受けてください」という判定でした。

 

ここが誤解されがちだったのです。改定後のCでは「Xヵ月後など再検査時期を明記し、受診者行動を明確に指示する。(中略)なお経過観察、定期的検査、症状あれば受診、などの不明瞭な記載は行わない。」とされ、対応の厳密化が図られています。これまで曖昧だった表現を一新することで、結果をなおざりにしてしまう人が多かった状況を改善しようとしている点で、「進化」といえます。医療にかかる前に、再検査でしっかりフォローすべきということです。

 

A~Eの各判定の説明と健康保持・増進のために意識するべきことをまとめると、次のようになります。

 

A(異常なし):今回の健診では病的な所見は認められません。ただし将来の健康が保障されたわけではないので、日常生活に留意することが大切です。

 

B(軽度異常):服薬などの治療は不要ですが、日常生活の改善が必要です。生活改善で数値が良くなるか、次回の健康診断の結果で確認します。

 

C(要再検査・生活改善):再検査は再度同じ結果が出るかを調べるための検査です。指定された期間以内に医療機関を受診し、指定された検査を受ける必要があります。

 

D(要精密検査・治療):精密検査はより詳しい検査を行い、病気の有無を確認するものです。治療は、検査で異常がみつかり、医療機関での治療・指導が必要な状態です。できる限り早急に医療機関を受診し治療を受けてください。

 

E(治療中):今回の健診結果を主治医に伝え、主治医の指示に従って治療を続けてください。

 

■自覚症状がないまま、血管や臓器が傷つく生活習慣病の怖さ

 

おそらく職場の定期健診でBやCの判定が出た人の大半はほとんど自覚症状がないと思います。D判定でも、似たようなものかもしれません。「今はなんの症状もないし、大したことはないだろう」「しばらく仕事で手が離せないから、時間ができたら受診すればいい」となってしまうことが多々あります。しかし、このように自覚症状がないまま次第に血管や臓器が弱ってしまうのが生活習慣病の本当の恐ろしいところです。

 

生活習慣病はその名のとおり、生活習慣の積み重ねにより発症・悪化する病気です。おもに肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどを指すことが多いですが、肝臓や腎臓の病気、がん、喫煙習慣が関わる慢性肺疾患、歯周病なども広い意味で生活習慣病に入ります。

 

これらの生活習慣病は長い年月をかけて少しずつ進行します。そしてある日突然に心疾患や脳血管疾患といった命を奪いかねない重篤な病気を発症します。

 

厚生労働省の平成29年患者調査によると脳・心臓疾患の患者数は約43万人に上っています。これは高齢者だけの話ではありません。男性は40代から70代にかけて全死亡の2割ぐらいが脳・心臓疾患によるものです。女性は40代頃までは男性よりも少ないですが年齢が上がるとともに男性とほぼ変わらなくなります。

 

また高血圧や脂質異常症、糖尿病などは互いに関連もしています。血圧の値が高くなると血糖値も悪くなり、血糖値が上がると血圧や血中脂質の値も悪化するなど、どんどんリスクが重なり、動脈硬化が進行し全身の血管や臓器に悪影響が及んでいきます。この段階になってから治療をしてもどうしても改善効果は限られてしまいます。発症・進行を予防するにはできるだけ最初のうち、つまり小さな異変の段階で生活改善をスタートすることが肝心です。

 

血糖値でいうと「数値が少し高くても、まだ糖尿病でないから大丈夫」と考える人も多いですが、糖尿病の人は糖尿病と診断される10年以上前から高血糖がみられることがわかっています。血糖値が高い状態が長く持続することで糖尿病と診断された時点ではすでに動脈硬化が進み始めていると考えなければいけません。実際に脳・心臓疾患を経験する人の多くは発症の10年とか20年前から高血圧や高血糖などの数値に異常が生じています。

 

ということは40~50代で脳・心臓疾患を起こさないためには30代から血圧や血糖、血中脂質などに気をつけ、悪化させないように生活や働き方を考えていく必要があります。人生100年といわれる今は、定年まで勤め上げたあともまだ何十年も人生が続きます。60代も70代も元気で過ごしたいと思うのであれば、40~50代のうちに定期健診結果を活かして生活習慣病の発症・進行を防ぐことが重要になるのです。

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    ※本連載は、富田崇由氏の著書『コストゼロで作る小さな会社の健康な職場』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    富田 崇由

    幻冬舎メディアコンサルティング

    働く人の健康問題に注目が集まっていますが、組織として健康増進に取り組んでいる企業は多くありません。 「健康経営」や「従業員の健康づくり」は必ずしも産業医がいなければできないものではなく、小さな会社でもコストを掛…

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