「円安による消費者物価上昇」は、消費に悪影響
輸入企業のほうは、ドルを高く買わされた分を製品の売値に転嫁しようとします。競争が激しいと転嫁が難しい場合もありますが、ライバル企業も同様に輸入価格の上昇に苦しんでいるので、比較的簡単に値上げが通る場合も多いでしょう。
そうなると、消費者物価が上がります。消費者は給料が増えないのに消費者物価が上がるので、買える物(財およびサービス、以下同様)の量が減ります。景気が悪くなるわけですね。
輸入品が高くなったから国産品を買おう、という動きが出てくれば良いのですが、アベノミクスの円安で輸入数量が減らなかったところを見ると、そうした動きにもあまり期待はできないようです。
輸出数量増、輸入数量減が小幅だとすると、消費の減少と相殺して景気への影響がニュートラル、ということも十分考えられるでしょう。
円安が「金融引締め」を招く時代が来る?
円安で消費者物価が上がると、日銀が金融を引き締めて景気をわざと悪化させるかもしれません。過去何十年かなかったことなので、今後もないと思っている読者も多いでしょうが、少子高齢化による労働力不足で賃金が上がっていくようなことになると、輸入インフレと賃金インフレが重なって、日銀の引き締めを招くことがあり得るでしょう。
昔、ドイツ人と話していたときのことを思い出しました。「日本人は円高を嫌うが、円高になれば輸入物価が下がり、インフレ懸念が遠のくから金融引き締めが遠のくだろう。景気には良い影響があると思うが」というのです。
何十年も忘れていましたが、少子高齢化による労働力不足が本格化すれば、そんなことが日本でも起きるのかもしれませんね。
少子高齢化で「景気の波が小さく」なる?
もうひとつ、少子高齢化は景気の波を小さくする、ということも覚えておきたいですね。高齢者の消費は安定していますので、高齢者向けサービス従事者の所得も安定しているからです。
極端な話、現役世代が全員で高齢者の介護をしている世界では、景気の波はありません(笑)。それは極端だとしても、そうした世界に近づいていくことは十分あり得るわけです。
為替レートに関連していえば、円安で輸出企業が輸出を増やそうとしても、労働力不足で増産できない、といったことが起きるかもしれません。それ以前に、現在の流れが続いて海外現地生産のウエイトが圧倒的になってしまう可能性のほうが高そうですが。
今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、わかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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