年金を生活の柱とするシニア世代にとって、当たり前だった「対面」や「紙」のサービスが消失していく現状は、不便を超えた疎外感をもたらしています。便利になればなるほど、できない人が切り捨てられてしまう社会の歪みはなぜ生まれるのか。ある男性の切実な訴えを通して、現代社会が抱える「置き去りの実態」を浮き彫りにします。
ふざけるな!年金月16万円・72歳男性が激怒。病院の受付で告げられた「まさかのひと言」 (※写真はイメージです/PIXTA)

70代のガラケー所有の男性、怒りの正体

「ふざけるなと思いますよ、本当に」

 

怒りを隠そうとしないのは、小林太郎さん(72歳・仮名)。定年まで都内の建設会社に勤め、現場監督として働いてきました。2歳年下の妻・和子さん(仮名)と2人暮らしで、現在は小林さんの年金月16万円と、和子さんの年金月9万円が生活のベースだといいます。

 

怒りの発端は、かかりつけ病院の予約方法が変わったことでした。

 

「『今度からアプリで予約してください』と紙を渡されたんです。『スマートフォンを持っていない』と言ったら、『ご家族にお願いしてください』と。まさか、開いた口が塞がらないですよ」

 

小林さん夫婦が持っている携帯電話は、いわゆるガラケーです。子どもは実家から車で3時間ほどの地方に住んでいます。

 

「『家族がいない人は、どうしたらいいんだ?』と聞きました。そしたら『窓口でお待ちいただくことになります』と言うじゃないですか。結局、そこで3時間待ちましたよ」

 

銀行でも同様の経験をしました。長年利用してきた支店が統合され、通帳も廃止の方向に。

 

「『紙の通帳は有料になります。アプリで確認できますから』と言われました。私はきちんと紙で残したいだけなんです」

 

窓口での手続きも予約制に変わり、電話をかければ自動音声案内。番号を押し間違え、最初からやり直しになることもあったといいます。

 

「人と話したほうが速い。間違えたら『違いますよ』と言ってくれれば済む話でしょう」

 

小林さんの怒りは収まりません。もちろん、自分が機械に弱い自覚はあると認めます。

 

「でも、現役時代はパソコンも触りました。図面もデータ化されましたから、全部拒否しているわけじゃない。ただ、選べる余地がないのが腹立たしいんです」

 

最近は市役所の手続きもオンライン申請が推奨されています。窓口は混雑し、手渡される書類にはQRコードが印字されています。

 

「便利な人は便利でいい。でも、できない人はどうするのか。その説明が全然ない」

 

それは怒りというより、社会に線を引かれた感覚に近いと小林さんは語ります。

 

「“こちら側”に来られない人は、自分でなんとかしてください、と言われている気がするんです」