リーキーガットは「トンデモ医療」?
近年、リーキーガット症候群が、さまざまな病態の原因になっていることが明らかにされています。一般向けの書籍もたくさん出版されており、自分でリーキーガットかもしれないと疑って、当院を受診される患者さんが増えています。
しかし、原因の分からない不定症状に対して、ゾヌリンを測定することもなく、安易に「リーキーガットが原因じゃない?」という診断がなされている場合も見聞きします。「リーキーガット」という言葉が一人歩きしている感があります。
リーキーガットといえば、これまでは代替医療の分野で、根拠の乏しいサプリメントなどを売りつけるときの宣伝文句としてよく使われてきました。標準的な医療からみれば、「トンデモ医療」の代名詞のような印象が持たれているのも事実です。
本当に、どれほど腸内環境が乱れバリア機能の低下が起こっているかがあいまいなまま、安易に「リーキーガットによる症状」と言われる症例が増えてきているように思います。
それが、医学的なエビデンスを大切にする医師の先生方から見た「胡散臭さ」の原因にもなっているように思うのです。
リーキーガットの「新しい定義」を考える
■「従来の定義」では、腸内環境の乱れから生じる諸症状を見逃しかねない
しかし、マイクロバイオータの研究が進むにつれて、そうとばかりは言っていられないような状態になっています。これまでの私の臨床的な経験からは「リーキーガット」という言葉を次のように定義して使用するのがいいのではと思います。
<狭義のリーキーガット>
⇒ゾヌリンが高値で、腸管粘膜のTJの隙間が開いている状態のもの。
これまでのリーキーガットはこの場合を意味しています。セリアック病などTJの破壊が起こり、腸管上皮の透過性が亢進している状態。日本では、厳密な意味でこの条件を満たす症例は少ないと思われます。現実的には、血清中のゾヌリンをきっちりと測定して、リーキーガットの診断を正しくつけることのできる施設は多くはありません。
逆にそのことが、安易に「リーキーガット」の名前を使用し、根拠のない治療に患者さんを迷い込ませる原因にもなる可能性があります。
この基準をはっきりさせることがとても重要ですが、この基準を満たさないものはリーキーガットではないと判断されてしまいます。実際に、リーキーガットが起こっていなくても、腸内環境のバランスが乱れることでさまざまな症状が起こります。これらの症例を見逃すリスクを減らすためにも、新しく、「広義のリーキーガット」を考えてみてはどうかというのが私の今回の提案です。
<広義のリーキーガット>
⇒ゾヌリンは高くなっていないか測定していない。つまり、TJの破壊は確認されていないが、腸内環境の悪化により腸管のバリア機能は低下しており、免疫反応が亢進したことでいろいろな症状が起こっている状態。
非セリアック性グルテン・小麦過敏症やその他の遅延型フードアレルギーなどがこの病態に相当すると思われます。少なくとも、遅延型フードアレルギー検査で、食材に対してのアレルギー反応があることを確認する必要があります。
マイクロバイオータの多様性が失われることにより、腸管のバリア機能が低下するということは、さまざまな研究によって立証されています。つまり、狭義のリーキーガットが起こっていてもいなくても、腸管のバリア機能が低下することが、さまざまな不調の原因になります。この場合は図表2で示した腸内フローラのバランスや、粘液、分泌型免疫グロブリンの量や機能が低下していることが原因であると考えられます。
そして、バリア機能が低下する根本には、マイクロバイオータの多様性の消失があると言ってもいいのです。この多様性の消失を「腸管ディスバイオーシス」と言います。
リーキーガットとディスバイオーシスは密接に関連しており、別々に議論できるものではなく、一つの病態をどの角度から見ているのかの違いであると言えましょう。
私は、狭義のリーキーガットの有無だけを問題にするのではなく、その背景にある腸管バリア機能の低下、あるいは腸管のディスバイオーシスこそを問題にするべきであると思います。
その意味で、広義のリーキーガットでは、腸管バリアの低下の原因となっている腸管ディスバイオーシスを含めて考えてもいいのではないかと思います。
このように全体的に、病態を捉えることがとても大切だと思います。「リーキーガット・ディスバイオーシス症候群」としてセットで治療を考えるべきだと思います。
次回は、この広義のリーキーガットの概念をもとに、小麦やその他の食材による体調不良に対して、どのように対処していけばいいのかについて話していきましょう。
※本稿および次回記事は、「健常人ではグルテンフリーを行ったほうが健康に良い」ということを示したエビデンスはないという趣旨で書かせていただいています。私が調べた限りでは、そういうエビデンスは見つけることができませんでした。
読者の中できっちりと示したエビデンスを示した研究論文を見つけられた方は、ぜひ、編集部にご一報ください。以後の記事で、私の主張が過ちであったということをきっちりと書かせていただきます。
小西 康弘
医療法人全人会 小西統合医療内科 院長
総合内科専門医、医学博士
藤井 祐介
株式会社イームス 代表取締役社長
メタジェニックス株式会社 取締役
株式会社MSS 製品開発最高責任者
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