「懲罰的円高」を経て「恩典的円安」の時代へ突入か
しかし今、日本が貿易赤字国に転落したことで、恩典的円安の時代に入っていくのではないだろうか。
それは購買力平価から相当程度(2~3割か)安い為替レートが定着し、日本の価格競争力に為替面からの恩典が与えられる時代である。懲罰的円高時代と同様に、今回も経済合理性とともに、覇権国米国の国益が鍵となる。
米国は脱中国のサプライチェーンの構築に専念しているが、その一環として中韓台に集中している世界のハイテク生産集積を日本において再構築する必要性が出てくる。そのためには恩典的円安が必須となる。
恩典的円安で日本にハイテク産業集積が戻る
注目されるのはTSMCの熊本工場のアップグレードと増強である。日本のコスト高を補填すべく政府が4000億円の資金供与を行ったが、1ドル120~130円になると日本工場のコスト競争力が大きく高まる。
台湾一極集中のTSMCは工場の多国分散を図らざるを得ないが、日本での生産体制を大きく構築していく可能性も想定される。
白川日銀総裁時代の1ドル80円の円高の下でエルピーダメモリが破たんしてマイクロンテクノロジーに買収されたが、今日本のマイクロン広島工場は最も高収益の工場になっているはずである。
日本が一度失ったハイテク産業集積を取り戻す可能性は大きく高まってくるといえよう。
購買力平価を超える円安が定着し日本企業の価格競争力が大きく回復し、企業収益が史上最高を更新している。法人企業の売上高経常利益率は高度成長期から2012年頃までの2~4%水準から大きく上昇し、7~8%となっている。
企業にようやく賃金引き上げの原資が備わりつつあることがわかる。また国内生産コストが円安で低下したことで工場の国内回帰の必要性が高まってくる。さらに輸入品をより安価な国産品に切り替える動きが強まってくるだろう。