「21世紀病」としての自閉症スペクトラム
■21世紀に急増した理由は「遺伝的要素」だけでは説明しきれない
自閉症スペクトラムが最初に報告されたのは1943年です。主な症状として、社会的行動や対人コミュニケーションに支障を来すことや、反復行動や特定のものごとに強いこだわりを示すことが挙げられます。
当初は1万人に1人程度のまれな病気と考えられていました。1960代後期に統計的な調査がされたころには1万人に4人でしたが、2000年には150人に1人に、2010年には68人に1人にまで増えています。
もちろん、患者数が増えた背景には、自閉症スペクトラムへの認識の高まりや過剰診断があることは否定できません。しかし、それを差し引いても自閉症の有病率が増加しているのは事実です。
自閉症スペクトラムの患者さんでは多数の遺伝子の変異が報告されています。さらに親子間での遺伝率が高いことから、遺伝的要素が発症の原因と考えられています。日本では自閉症スペクトラムと診断されるや否や、「この病気は遺伝的な病気なので、治ることはありません」という烙印(らくいん)が押されます。そして、治療対象からは外され、「療育」という発達支援に移行します。症状を抑えるための向精神薬が処方されることもありますが、あくまで対症療法でしかないのです。
しかし、これだけの短期間に遺伝子の変異が広がるということは考えにくく、遺伝的な要因だけでは急増の理由を説明することはできません。現在では、遺伝的要素に加えて、環境的要素も加えた複合的な疾患であると考えられています。
遺伝子を取り巻く環境要因はエピゲノムと言われ、遺伝子のスイッチのオン・オフに大きな影響を与えます。そして、さまざまな実験結果から、同じ遺伝子変異を持っていても、エピゲノムの状態によっては発症したりしなかったりすることが分かっています。このように、遺伝子変異が原因で起こる病態でも、エピゲノムをコントロールすることで病気の発症を抑えることが可能であると分かってきており、このことを「エピジェネティクス」と言います。自閉症スペクトラムは「エピジェネティクス的な疾患」であると言うことができます。