医学のパラダイムシフトが始まっている
今回は、自閉症スペクトラム、うつ病、過敏性腸症候群を例に挙げて、これまで脳の病気、心や精神の病気とされていた疾患が、実はマイクロバイオータ、腸、脳の間での情報伝達がうまくいかないことが関係しているということをお話ししてきました。
しかし、単純に「それだけ腸内環境は大切だから、腸活をやりましょう」ということではありません。もちろんそれはそれでとても重要なことですが、一番伝えたかったことは別にあります。
それは、医学の進歩に伴って、「脳が全身を支配する」「身体の臓器はそれぞれ別個に働いている」という人体観から「人体は巨大なネットワークである」というまったく新しい考え方への転換が起こっているということです。「全身の臓器がメッセージ物質を出して語り合っている」という人体観への変革が始まったと言えます。
この連載記事でお伝えしている「機能性医学」は、人体を巨大なネットワークであると考え、そのバランスの崩れたところを整えることで本来の自己治癒力を引き出そうとする新しい医療です。従来の、故障した部分だけを取り替えればいいという機械論的な考え方とはまったく異なります。
この壮大なパラダイムシフトはまだ始まったばかりで、医療関係者でもこの大きな変化を自覚していないことが多いです。旧来の機械論的なパラダイムが当たり前だと思うあまり、身体の臓器をばらばらに診ることを「専門的医療」であると思ったり、自分の常識で受け入れられるかどうかだけで判断して「新しいパラダイム」を否定したりする人が多くいることも事実です。
「新しいパラダイム」が公に認知され、受け入れられ、やがては新しい常識になるまでには数十年の時間を必要とします。最先端の知見が教科書の意見と異なることもよくあることです。
40年前には「胃潰瘍は感染症である」といったらばかにされ、誰もまじめに意見を聞いてくれなかったでしょう。ストレスが原因であると信じて誰も疑いませんでした。しかし1983年にマーシャルが、胃潰瘍はヘリコバクター感染が原因で起こることを証明し、今は誰もそれを疑う人はいません。今や胃潰瘍が感染症であることを否定する人はおらず、治療は大きく変わりました。
医学の常識は時に劇的に変わるのです。そしてこれからは、人体を単なる臓器の寄せ集めとして考えるのではなく、巨大なネットワークであるという認識で捉えないといけないのではないかと思います。
この記事を読むことで、特に医療関係者の方が機能性医学に興味を持ってくだされば、これほどうれしいことはありません。
<参考図書>
宮澤賢史著『医者が教える「あなたのサプリが効かない理由」』(イースト・プレス、2018年7月刊行)
小西 康弘
医療法人全人会 小西統合医療内科 院長
総合内科専門医、医学博士
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