(※写真はイメージです/PIXTA)

老親を見送って一息ついたのもつかの間、本人がまさかの末期のがん宣告…。医師から余命いくばくもないと告げられ、遺言書作成を急いだのには、理由がありました。夫婦には子がなく、1人いる姉との関係は最悪。夫婦共有の自宅不動産に、亡き配偶者の姉の名義が入るようなことになれば大変です。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

子のない夫婦、不仲な実姉も相続人に

木村さんが遺言書を作ろうと思われた理由はすぐに理解できました。木村さん夫婦には子どもがいません。木村さんが夫よりも先に亡くなった場合、夫だけでなく、木村さんの姉にも相続権が発生するのです。

 

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合に相続する法定割合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。

 

遺言書がなければ、木村さんの夫と木村さんの姉が話し合い、遺産分割協議書を作成しなければなりません。

 

木村さんの夫も、姉とは関係がよくなく、円満な話し合いができるとは思えません。しかも、両親の財産は妹である木村さんがほとんど相続しているという事情がありますから、住宅取得資金の贈与を受けていても、それだけでは満足せずに、財産を取り戻そうと考える可能性は十分あります。

懸念事項は、親の遺産ではなく「夫婦共有名義の自宅」

じつは、いちばん気がかりなのは、両親から相続した実家ではなく、木村さんと夫の共有名義で購入した自宅です。土地・建物とも2分の1の割合の共有となっているため、木村さんの持ち分の2分の1に対して姉が法定割合4分の1の権利を主張すれば、8分の1が姉のものになりかねません。

 

木村さんの夫と姉が自宅不動産を共有するなど、絶対に回避したいところです。それには、木村さんは財産のすべてを夫に相続してもらうよう、遺言書で指定しておくことが必要です。

 

このようなリスクをよく理解していた木村さんは、夫ににつらい思いをさせたくないと考え、命があるうちに公正証書遺言を作成しようと決意されたのでしょう。財産のすべてをご主人に託したいというのが木村さんの意思でした。

「遺言書作成、とにかく急いで、急いで…!」

筆者は打ち合わせに見えた木村さんのご主人に必要書類や段取りを伝え、すぐに印鑑証明書と戸籍謄本を用意してもらい、公証役場にも連絡して公正証書遺言の作成準備に取り掛かりました。

 

通常なら、急いでも1週間後くらいのところ、公証人の先生に無理をお願いし、翌日の夕方、公証人と公証役場の事務の方、以前もご両親の遺言作成の証人をした当社2名の4名が木村さんの病室に出向きました。急がなければという胸騒ぎを覚え、すべて翌日にすませられるよう、追われるように段取りをしたのです。

 

木村さんはときおり咳込んでいましたが、顔色も悪くなくお元気に見えました。助けも借りずにベッドから起き上がり、内容を確認して署名されました。無事、公正証書遺言は完成したのです。

 

「ああ、先生にお願いして本当によかった!」

 

笑顔になった木村さんは、心から嬉しそうに見えました。「また来ますね」と握手して、筆者たちは病室をあとにしました。

 

ご主人から連絡があったのは、その翌々日でした。余命いくばくもないという医師の診断のとおり亡くなったのです。遺言書を作成した、わずか2日後のことでした。

 

木村さんのご主人と遺言書作成の打ち合わせをするなかで、なぜか木村さんの切羽詰まった思いが伝わってくるように感じ、とにかく急がなければという気になったのは本当に不思議なことです。遺言書が完成したあとの木村さんのホッとした表情も印象的でした。

 

この遺言書は、木村さんからご主人への最後の贈り物なのでしょう。遺言書が間に合ったことに筆者も心から安堵した、忘れられないケースとなりました。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

【関連記事】「遺留分」とは…割合や侵害額請求、“注意したいポイント”|相続税理士がわかりやすく解説

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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