(※写真はイメージです/PIXTA)

鹿児島県阿久根市の中心市街地、国道3号線沿いに立つ「イワシビル」という楽しそうなネーミングの建物が異彩を放っています。並ぶ商品は「旅する丸干し」「旅する焼きエビ」など独自のネーミングの商品です。地方の中小企業の取り組みを、清丸惠三郎氏がレポートします

やりたい仕事があれば若者は地元にとどまる

■新商品開発を継続させる力

 

この下園正博氏にとってさらなる飛躍の機会となったのが、鹿児島市内にあって全国の建設業者向けにクラウドサービスの企画、開発、販売などを展開している現場サポート社長の福留進一氏との出会いである。

 

13年に鹿児島県が主催する、若手の産業人材育成の勉強会、かごしま産業おこし郷中塾で二人は邂逅したのだが、福留氏の会社が急成長を遂げながら、離職率が27%にも達した時期があると聞かされて下園氏は驚かされた。しかしその危機を、社員の率直な声を聴くとともに、しっかりした経営指針をつくり上げることで乗り切ったと聞き、感じるところがあった。

 

福留氏は当時、鹿児島県中小企業家同友会の理事を務めており、そうした関係から下園氏も同友会に入会する。まだ「旅する丸干し」が完成形になる前だった。「仮に彼が同友会に入らず、また経営指針の重要性を理解していなかったら、私は『旅する丸干し』のあとの製品開発が続かなかったのではないかと思っています」と福留氏は明言する。

 

「私の経験から言えば、会社が儲かっても、理念なき組織では社員は付いてきませんから」

 

同友会に入会した下園氏は下園薩男商店の経営指針を策定、当初、3項目からなっていた経営理念だが、現在は「今あるコトに一手間加え、それを誇り楽しみ、人生を豊かにする」に絞り込んでいる。福留氏の現場サポートは年間80回にわたり経営指針に関する社内勉強会を開いているが、下園薩男商店もそれを見習い、経営理念などの浸透を図っているという。

 

「水産加工業界には若い人が入ってこず、人材確保に苦労している。人材確保のためには経営戦略云々より、まずもって若い人が集まり、働き甲斐を感じられる会社に変えていく必要がある。そのためには経営指針、理念が不可欠です」と下園氏の考えは明確だ。

 

下園薩男商店では、「旅する丸干し」の開発、そして「イワシビル」のオープンがあって、その斬新さゆえに就職先として地元の高校生や地元出身の大学生に人気で、18年前後で5人を新卒採用している。全員が開発要員で、同時にイワシビル1階のカフェ・ショップを手伝い、2階の加工工場でも働く。3階は簡易宿泊所だが、客が訪れるとその世話もする。

 

しかし、そのことに関して不服を言う社員はいないという。他の仕事への不平不満以上に、商品開発が楽しくて仕方がないのである。そうした若い社員を見ながら、「やりたい仕事さえあれば、若者は地元にとどまってくれるのです」と下園氏は語る。

 

「Kots」という新商品を開発した女性社員は、ある有名女性歌手の大ファンだ。

 

「彼女のファンでキラキラ輝いている女性が将来、子供を生んだときに、わが子に食べさせられるような小魚入りピーナッツというコンセプトでKotsは開発しました。パッケージデザインも、自分でその歌手のCDジャケットをデザインしている東京都内の事務所を探し当て、制作を依頼しました」という。

 

また高校でインテリアを学んだ女性社員は、地元で不要になったボンタンの木の端材を使ったカッティングボードを開発した。「(企画のアイデアを求めて)地元の農家を回っている中で、毎年、端材が出るのだが、何か使い道がないかと聞かれて思い立ったというのです」と下園氏。

 

開発会議では、アイデアが出されると、「それって、一手間入っている?」という言葉が自然と誰からとなく出てくるそうだ。経営理念がそこまで浸透しているということだろう。

 

下園氏は「旅する丸干し」だけでなく、やはり阿久根特産の焼きエビを生かしたパスタソース「旅する焼きエビ」をその後、シリーズで売り出している。阿久根近辺で獲れた魚を加工し、ブランド化し、まずは国内、そして最終的には海外へと積極的に売り出していきたいと語る。自社はもちろんだが、地域を豊かにし、地域に雇用を生み出すことが常に念頭にある。

 

「阿久根の話になると、時には激して涙さえ浮かべる」と福留氏が感嘆するほど愛郷心の強い下園氏だけに、次は何が飛び出してくるか期待は大きい。

 

■若手が参画する「道の駅」づくり

 

この下園氏が阿久根の地域おこしで手を携えているのが、はしコーポレーション専務の稲本健二氏だ。若手経営者が手を携えて阿久根の、ひいては鹿児島の元気を取り戻そうということで、下園氏が同友会への参加を呼びかけた仲である。

 

はしコーポレーションは、創業106年という阿久根有数の老舗。でんぷん製造業で基盤をつくり、現在ではガソリンスタンド経営やプロパンガス販売などのエネルギー事業、住宅リフォーム事業、うどん・そばなどの外食事業、それに貿易事業などを展開。売上高17億円余りの会社にしては事業分野が驚くほど多岐にわたる。

 

稲本氏の岳父に当たる3代目の枦壽一社長が「きわめて情熱的で事業意欲が旺盛な経営者」だということが多角経営の主因だが、地域経済がシュリンクしていく中で、一つひとつの事業の収益力が減退していく。それをリカバーしつつ、同時に住民サービスに不可欠なビジネスを地域の有力企業として提供する義務があるとの考えもあってのことだと考えられる。もちろん一事業が突出するとリスクが大きいとの認識もある。

 

稲本氏は1975年、父親の仕事の関係で奄美大島に生まれた。大学を出るとカナダで9年間生活、その後鹿児島で貿易関係の会社に勤めている。2013年にはしコーポレーションに移り、貿易事業を中心に社業を見ているという。「最近、インドで製造されたカニカマを中国に輸出するという三国間貿易をスタートさせました。今後、そのルートに阿久根の水産加工品など特産物を乗せたいと取り組みを始めたところです」

 

稲本氏の視野の中にも、しっかり阿久根が入っているのだ。その稲本氏が下園氏と協力して推進しようとしているのが、「道の駅阿久根」の運営などを行っている阿久根市観光連盟の株式会社化への参画。すでに阿久根市は方針を発表、3月中には道の駅の指定管理者が決まることになっている。

 

下園氏は斬新なアイデアを盛り込んだ道の駅づくりを意図して、このビジネスに協力していきたいと考えており、稲本氏はそこに出資する方向で検討中だという。2人の若手経営者は阿久根の元気のために、さらに多くの若手経営者を巻き込むことを含め、様々に動いている。

 

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    ※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

    小さな会社の「最強経営」

    小さな会社の「最強経営」

    清丸 惠三郎

    プレジデント社

    4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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