血管性認知症の治療薬として効果が認められた薬はない
高齢者になると心房細動がよく起こり、そのために心臓に血栓ができます。その血栓がはずれて脳の動脈を詰まらせ、脳塞栓を生じる危険があります。
脳塞栓を予防するため、トロンビンというタンパクに作用して血液凝固を防ぐワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(ドアック、DOAC)などの抗凝固薬が予防的に使われます。
しかし、薬の量が多すぎると、脳や消化器などに出血を起こします。DOACには投与開始時に腎機能や体重や年齢で用量が決まっているものもあります。ワルファリンは定期的に採血して、投与量を慎重に決めなければいけません。
血管性認知症の治療薬として効果の認められた薬は現在ありません。そのため、十分な予防を行い、血管性認知症になった人には介護やリハビリテーションを行っています。
リハビリテーションで「認知機能」が改善することも
血管性認知症のケアもアルツハイマー病と同じように進めますが、血管性認知症の人はアルツハイマー病の人より介護者を頼りにしています。身体も心も意のままにならず、孤独になって、不安がつのるからです。
それを解消するために顔見知りの頼りになる人が介護してあげると、行動面、感情面、認知機能も改善することがあります。
歩行障害のある人のために、車椅子などの補助具や住宅の改修に向けた補助などにも介護保険は利用できます。脳血管障害の後遺症として現れる言語障害や歩行障害などもリハビリテーションは効果があります。
病院やデイケアで受けるリハビリテーションに加えて、理学療法士や作業療法士などが認知症の人の家へ出張するリハビリテーションも可能です。
リハビリテーションは、運動や会話の機能だけでなく認知機能も改善します。また、脳血管障害前の生活に近づくと、落ち込んでいた感情や意欲が回復して、積極的に治療に取り組むようになります。脳血管障害になっても諦めない姿勢が本人、家族ともに大切です。
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中村重信
京都市出身、1963年京都大学医学部卒。1990~2002年広島大学医学部内科学第三教授、2002年~広島大学名誉教授/洛和会京都新薬開発支援センター所長(現在顧問)。2005年~公益社団法人「認知症の人と家族の会」顧問。主な著書:ぼけの診療室(紀伊国屋書店、1990)、痴呆疾患の診療ガイドライン(ワールドプランニング、2003)、老年医学への招待(南山堂、2010)、私たちは認知症にどう立ち向かっていけばよいのだろうか(南山堂、2013)受賞:日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞「功労賞」(2017)
梶川博
広島県広島市出身。1957年修道高等学校卒業、1963年京都大学医学部卒。1964聖路加国際病院でインタ−ン修了、医師国家試験合格、アメリカ合衆国臨床医学留学のためのECFMG試験合格、1968年京都大学大学院修了(脳神経外科学)医学博士。1970年広島大学第二外科・脳神経外科(助手)、1975年大阪医科大学第一外科・脳神経外科(講師、助教授)。1976年ニューヨーク モンテフィオーレ病院神経病理学部門(平野朝雄教授)留学。1980年梶川脳神経外科病院(現医療法人翠清会・翠清会梶川病院、介護老人保健施設、地域包括支援センター)開設、現在会長。医学博士。1985年槇殿賞(広島医学会会頭表彰)、1996年日本医師会最高優功賞。日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本脳神経外科救急学会・日本神経学会・日本認知症学会会員、広島県難病指定医、広島県「もの忘れ・認知症相談医(オレンジドクター)、日本医師会&広島県医師会、日本医療法人協会&全日本病院協会広島県支部所属。メールアドレス hkajikawa@suiseikai.jp
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