(※写真はイメージです/PIXTA)

在宅介護に一生懸命に取り組んでいる職員が「老人ホームは動物園と同じですね」と感想をもらします。実際に老人ホームでは、24時間365日、万全の態勢で入居者である要介護者を管理しています。この職員の考えは正しいでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

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老人ホームの感動的な話には要注意 

口コミではありませんが、介護の世界では、感動秘話的な話もよくありますが、これも要注意です。

 

少し前に、多くの老人ホームで事例発表会なるものが流行りました。事例の多くは、死んでいく高齢者に対し介護職員がどうかかわったかとか、認知症で右も左もわからない高齢者に対し、丹念にケアをし続けた結果、このような改善が見られた、というものでした。

 

私は、この「事例」自体を、否定したり非難したいわけではありません。

 

私が問題だと考えているのは、とりわけ「死」という、今の医学では逃れようのない現象に対し、「人はこうあるべきだ」と推奨するような言動に対し「NOだ」と言っているのです。その人が、どう死のうとそれはその人の自由です。なんで自分が死ぬときに、周囲を感動させなければならないのでしょうか? 「まだ、死にたくない!」「もっと生きたい!」と叫びながら、無様に死んでいったって、いいじゃないですか、と言いたいのです。

 

認知症も同じです。「認知症の高齢者はこうあるべきだ」とか「認知症の高齢者だってここまではできるはず」ということは、介護側(周囲)の押し付けです。できてもいいし、できなくてもいい。どっちだっていいじゃないですか。その人の自由です。

 

特に、認知症の場合、人様のご迷惑にならないように、という概念が強く出てしまいがちですが、周囲の人の理解が進めば、おおむね解決できる話ばかりです。もっと言うと、認知症を発症する人など、全高齢者の中の一部にすぎません。長寿社会になっているため、その割合が増えてはいますが、高齢者全員が認知症になっているわけではないということを、私たちは頭の中に入れておくべきだと思います。

 

ある機関の調査によると、現在65歳以上の人口に占める認知症患者の割合は18%です。さらに、これを細かく年代別に見てみると、80歳以下の高齢者の認知症は10%以下です。80歳を超えると急増し85歳以上の高齢者は約50%が認知症になっているといいます。

 

この数字をどう見るかだとは思いますが、私は、80歳までに死んでしまえば、多くの人は、認知症を発症することなく人生を終えることができると理解しています。みなさんは、自分が80年以上、生きる自信がありますか? 少なくとも、私にはありません。

 

すこし、商売的な視点からも考えてみます。介護事業者にとって、認知症は比較的簡単にお金を獲得することができる対象です。こうした表現を不愉快だと感じる方もいると思いますが、現実をありのままに語るならば、この通りです。だから、多くの介護事業者は、ありとあらゆるところで、寝ても覚めても認知症、認知症と言っています。

 

認知症をターゲットにする理由は何でしょうか。理由は簡単です。相手が困っているからです。困っている人を相手に商売をするというのは、ある意味、楽に商売ができます。考えてみてください。困っている人は、みな、藁わらにもすがる気持ちで相手にすがっていきます。だから、多くの介護事業者が、できるできないにかかわらず、「認知症対応」を自分たちのサービス商品として声を大にして売り込んでいるのです。

 

話を人の死に戻します。介護は日常生活です。日常生活に大それた感動など必要はありません。もちろん、たまには感動することも必要ですが、年がら年中感動していると疲れてしまいます。

 

たまに、非日常的な世界を覗いて感動している程度でいいのではないでしょうか? それでは、日常生活にとって必要なこととは何でしょうか? それは、喜怒哀楽です。頭にきたり、悲しくなったり、怒りで手が震えたり、うれしくなったりすること。これが、介護にとって一番重要なことだと私は考えています。

 

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※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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