(※画像はイメージです/PIXTA)

どこの職場にもいる面倒な上司。何かと些細なことで注意してくるくせに妙になれなれしい。それがストレスで会社に行きたくないが辞めるのは癪だという。そして、ある日とった驚きの行動とは。精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

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「こまめな運動」が認知能力を鍛える

腸の内壁は1日に数百万個の細胞が剝がれ落ち、死滅する。もちろん新しいほぼ同数の細胞が再生される。スピードに差があるが、身体のすべての細胞においてこれが起こっている。つまり、身体は一時も同じ細胞によって構成されていない。いわば流れのようなものである。

 

この流れが滞ったり乱れたりすることで、さまざまな不調が起こる。それが病であるが、健康とは身体の各部分の異なる流れが全体として調和していなくてはならない。このような身体という流れを整えさせる手段の一つは、運動である。

 

ここでいう運動とは、スポーツのことではない。スポーツは基本的に戦闘の技術で、過激にやれば身体の調和を乱すこともある。健康のため必要なのは日常的な身体運動、たいていは日々の調理や子供の世話、物づくり、農耕のためのこまめな運動などである。これらの運動は身体の内なる流れを整えるばかりでなく、当然精神の安定にも良く、人間の認知能力をも高める。運動が身体の調和をもたらし、認知機能を高めるのだ。

 

しかし最近、こういったこまめな運動が無視される傾向にある。調理はしないでもコンビニで間に合うし、買い物も居ながらにしてネットで済ませられる。子供たちは、こまめな運動である泥遊びや、おままごとではなく、プログラムの定まった習い事や塾に通ううち、動かずに済むテレビやゲームに親しみはじめる。すべてが用意された便利な生活ではあるが、これは人間の認知機能を鍛えるに優れているとは言えない。

 

認知とは外部の情報を「能動的」に収集し、それに経験などを踏まえ総合的に判断する能力をいうが、例えばナイフで鉛筆を削ることは、鉛筆削りで削るよりも手の運動能力をより必要とし、経験の積み重ねもいる。骨の折れる分だけ、身体の能動性を必要とするが、自ら動いて得た新しい情報は、身体を動かさずに受け取る情報より、未来予測性に優れる。

 

答えが必ずある問題集を解く作業より、答えがない仕事現場で、でっち上げでも答えを創出するほうが、より認知機能の働きは高度といえる。ネットでの買い物も、通販サイトの情報は、店に出かけて得られる体験情報より質が劣りやすい。

 

流動的な状況下で自ら身体を動かし、運動によって状況を変えてゆく力を、早い時期から子供たちに身につけさせる必要がある。わたしが危惧しているのは、不登校の子供たちに、手先の細かい運動を苦手としている子供が多く、ゲームに浸る子供たちもこまめな身体運動を好まない傾向が目立つことである。

 

彼らは十分な教育の機会を与えられ、衣食住に困ったことはないが、それが運動能力の発達を阻害し、学校などでの適応力を奪っているようにも思える。学校へ行き、試験の勝利者となることを求められ、ひとたび後れを取ると他の選択肢を選ぶことなく、引きこもる。こまめな運動能力さえあれば、事態を打開し、いろいろな生き方を見つけることもできる。そのことを体験的に理解できないのである。

 

私はごみの山の中から売れるものをあさり、自分の学費に充てようとする貧しい国の子供たちの写真を見て感動したことがある。彼らは「学校へ行きたい」という強い内的必然を、「ない」という状況下で培う。そして、答えのないごみの山の中に可能性を探す。その作業は、学校では得にくい認知能力を極限まで鍛え、どのような環境にも生きられる力を彼らに授けたに違いない。

 

遠山 高史
精神臨床医

 

 

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※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

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