(※画像はイメージです/PIXTA)

外来に30年通い続けている統合失調症の女性がいます。ある診察日に浮かない顔で、「別れた夫から、お金を貸してくれと言われたが、どうしたらいいか」と話したという。彼女が夫と別れたのは、はるか30年も前のことです。元妻が取った行動とは。精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

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「何でも検索」は間違いの元

何でも検索の時代だが、出てくる情報が、検索した事柄のすべてであるかのような錯覚を生みやすい。物事を表層だけ把握して、わかったつもりになると、大切なものを見失うこともありうる。

 

例えば、「統合失調症」という病について検索すると、なかなかスキのない説明が出てくる。これだけで試験は通る内容となっている。しかし、私の外来にやってくる統合失調症の息子を持つ母親は、検索した情報を読んで暗くなる一方であったという。

 

そもそも、この病について満足のいく説明を私はネットどころかどこにも見たことがない。長年この病を診てきた経験豊富な精神科医に聞いても「この病はよくわからない……」とつぶやかれることがある。私も40年以上精神科医をやっているが、いまだによくわからない。

 

私の外来に30年通い続けている統合失調症の女性がいる。ある診察日に浮かない顔で聞いてきた。「別れた夫から、お金を貸してくれと言われたが、どうしたらいいか」。彼女が夫と別れたのは、はるか30年も前のことである。

 

彼女は19歳で同年代の車の整備工と結婚した。間もなく妊娠し、娘を出産したが、その少し後に混乱し、子供を抱いて夜の畑をうろついたため入院となった。夫は、彼女が統合失調症(当時は精神分裂病と呼ばれた)と診断されると、この病は治らないと何かで調べたらしく、入院中に強硬に離婚を申し立てた。

 

結局、彼女は退院後、実家に戻るしかなく、受診先も私のところに変わった。一時、元夫の親戚が見ていた子供は、元夫の再婚が決まると、彼女のところに移された。

 

その後も彼女は苦労を重ねた。父親はアル中で稼ぎがなく、母親のパート収入と彼女の障害者年金、わずかな母子手当で暮らした。さいわい贅沢な環境に育っていなかったおかげでよく耐え、不思議と病は改善していった。

 

そんなある日、誰もいない時を見計らって父親は家に火を放ち、焼身自殺した。父親は資産家の長男であったが、怠惰な質で、家業を継がず古い一軒家を相続しただけであった。とはいえ、表通りに面した実家、近くに商業施設もでき、土地の値段が上がっていた。

 

父親はそれを見越して保険金が下りることも確認し、自殺したようであった。その土地の半分を売って、新しい家を建てることができたそうである。

 

その後、彼女の病状はさらに改善し、ごく少量の薬を飲むだけで、仕事に就くこともできるようになった。統合失調症が治ることを信じない医者もいるようだが、私はかなりの確率で治ると信じている。こうして娘がめでたく結婚し、結構豊かにもなっていた彼女の前に、昔の夫が現れたというのだ。

 

彼は車の整備事業を興したが失敗し、職を転々とした挙げ句、二度目の妻にも逃げられたという。どこかで彼女が元気であることを聞き及んだようだが、30年ぶりに彼女と再会して、驚いたことだろう。自分が信じた情報が的外れだったからである。不治の病と決めつけ、彼女を見捨てた己れを恥じたかもしれない。

 

結局、彼女は、周囲の反対を押し切って元夫に金を貸したという。返済されることはないだろうが、彼女流のリベンジなのだろう。統合失調症は、実に多様な転機を辿る病であり、それがこの病の特徴でもある。安易な検索だけで病の有様を知れると思うべきではない。

 

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    ※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

    シン・サラリーマンの心療内科

    シン・サラリーマンの心療内科

    遠山 高史

    プレジデント社

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