ボスマネジメントのポイント
■上司を「動かす」ために、「上司の視点」から提言
ボスマネジメントでは、「上司の視点で、抱えている課題やニーズをくみ取りながら提言をしていく」ことがポイントです。
自分(部下)の視点だけで「こういうことに困っています」「こうしてください」と要求するだけだと、複数の課題や緊急性の高い問題を抱えている上司にとって「動く動機付け」が持てず、優先順位が上がりません。
「上司としては、どんな問題が解決できると嬉しいのか」「組織を、どういう状態にしたいのか」「上司の上司は、私の上司にどんなことを期待しているのか」
など、「上司のニーズ(WILL)」を想像しながら、そこと「自分の希望(WILL)」を重ねる文脈を探してみましょう。
例えば、「働かないおじさん」直属の上司は当然、この問題を自らの課題として捉えているので、相談しやすい上司と言えるでしょう。
「自分としては、あの先輩にこうなってほしい」
「その状態は、上司にとっても望ましい」
「その状態は、先輩本人にとっても望ましい」
というゴールが共有できれば、「その実現に向けて、上司にやってほしいこと」「同僚として協力できること」「本人が努力すること」が議論できるようになります。
このように、相手の見ている視点や物語(ナラティブ)を意識しながら共通点や解決策を一緒に考えるコミュニケーションを、「ナラティブ・アプローチ」と呼び、その考え方を紹介した『他者と働く〜「わかりあえなさ」から始める組織論〜(NewsPicksパブリッシング)』は人事の領域で大きな話題になりました。
「相手(上司や働かないおじさん)にも、相手が見えている景色や物語がある」ということを意識するだけでも、組織内のコミュニケーションはずっと円滑になります。
■「上司=偉い」という先入観を捨てて「ロールプレイ」してみる
また、ボスマネジメントを使いながら「働かないおじさん問題」に対処する現実的な方法の一つとして、「役割分担(ロールプレイ)」が有効な場合があります。
残念ながら、上司はどんな無理難題でも対応できるスーパーマンではありません。「持ち味」というか「得意なスタイル」があります。そこを誤解して、「上司なんだから何でも解決すべき」と迫ってしまうと、上司自身が疲弊してしまいますし、あなたの意見を聴くのが面倒くさくなってきます。
部下としては、上司の「持ち味」を悪く言えば「道具」「ツール」として使いこなし、理想的な組織の状態を獲得する、ということになります。
部下も上司も間違いがちですが、「上司は偉い」「指示は常に上から」なわけではなく「上司は役割」「部下も役割」にすぎません。上意下達の指示命令ばかりでなく、「お互いに協力して問題を解決する」「部下が絵を描き、上司に演じてもらう」ことは不自然ではないです。
例えば、営業方法を変える必要があるベテラン社員に対して、新任の上司が頭ごなしに説得しても反発されるケースがありました。
この上司は「じっくり話を聴く」スタイルは得意でも、「エネルギッシュにチームを引っ張る」スタイルは得意ではありません。ベテラン社員も、「何で新参の上司に指導されなければいけないんだ」というプライドが邪魔をして、素直に受容しきれない様子です。
その際、部下から「自分は同僚の立場で、今度の会議で営業方法に関する相談を投げかけます。その際に、対象のベテラン社員にアドバイスを言ってもらい、望ましい発言があったら、上司が上手に拾って具体化させる方向に持っていってください。意見や議論が混乱し始めたら、その際は途中でサポートしてください」と、事前に上司と作戦を練ってから会議に臨む形を取りました。
その結果、ベテラン社員も「自分が相談されて言ったアドバイスを基に、営業方法を変えていくことになった」ため、気持ち良く協力してくれました。
このように上司とある意味で「結託する」のは、あざといように感じられるかもしれません。しかし、「それぞれが役割を演じきって成果を出す」ことが組織の存在する意味なので、対外的な活動だけでなく社内的な改善にチームプレイやそれぞれの持ち味を発揮することに、後ろめたさを覚える必要はないと考えています。
この事例でベテラン社員の言動が変化したのは、単に「上司と若手部下がうまく役割分担したから」だけではありません。
人間の根強い欲求である「承認欲求」を満たすことができた点が大きなポイントです。
難波 猛
マンパワーグループ株式会社 シニアコンサルタント
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