(※画像はイメージです/PIXTA)

近年よく耳にするようになった「働かないおじさん」問題は、色々な要因が複合的に重なって生じた問題であり、少子高齢化と生産年齢人口減少が続く日本全体が向き合って解決すべき社会問題です。本質的な原因が見えてくれば、解決策が見えてくる可能性もあるでしょう。ここでは「雇用システム」に着目して、働かないおじさん問題の本質的な原因を探ります。

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働かないおじさんは「日本型雇用システム」の副産物

■従来の雇用システムに適応し過ぎた人ほど、活躍の場を失いつつある

「日本型雇用システム」の運用が難しくなってきた、という声が2019年前後から経済団体や大企業から聞かれるようになってきました。

 

「日本型雇用システム」とは、「新卒一括採用」「終身雇用」「年功序列型賃金」等を特徴とする仕組み全般を指し、「新卒で入社した会社で、定年まで勤務しながら徐々に賃金や職位が上がっていく」イメージになります。

 

この仕組みは、日本経済が右肩上がりの成長を遂げていた時代には有効に機能していました。

 

商品寿命やビジネスモデルの寿命も長く、技能の熟練が重視される時代では、安心して働きながら経験を蓄積した「経験あるベテラン」の方が活躍できたからです。また、経済も企業も成長を前提としていた中では、ポストも増え続けるため、「経験豊富な人材を管理職に登用して拡大する組織を運営していく」ことも合理的でした。

 

しかし、さまざまな環境変化や日本の構造変化に伴い、従来型の雇用システムは最適解でない(外部環境変化に対応しきれない)場面が増えてきました。あらゆる分野で短期間のイノベーションや前例のない変化が起こり、市場への臨機応変な対応やアップデートが求め続けられる中、「経験あるベテラン」の技能や「従来型の管理手法」を生かす場が、企業の中で失われつつあります。

 

この結果、企業に今までの文脈で誠実に長年勤めた、ある意味「真面目な」ミドルシニアほど過去の環境や雇用システムに適応し過ぎてしまった結果、そのままのスタイルでは活躍が難しくなっています。

組織が最終的に無能で埋め尽くされてしまう「法則」

次は、「働かないおじさん」問題の発生理由を、社外環境ではなく社内環境で考えてみたいと思います。

 

アメリカの教育学者、ローレンス・J・ピーターが提唱した、「ピーターの法則」という組織構成員の労働に関する社会学の法則があります。

 

この法則によると、「組織において構成員は能力の限界まで出世し、限界を迎えるとその地位に落ち着く(出世しなくなる)。その結果、どの階層も無能な人材で埋め尽くされる」とされています。

 

終身雇用・年功序列型賃金・企業別組合などが理由で定年まで降格も退職もしない組織の場合、この傾向がより顕著に発生します。なぜなら、一度昇格してしまえば、昇進後のポジションで必要とされる職務遂行能力がなかった(または外部の変化で能力が通用しなくなった)としても、懲戒事由でも発生しない限り降格されないので、能力不足な状態、即ち「無能化」したまま地位を維持することになるからです。

 

ゴーイングコンサーンという、財務諸表を作成する上での前提条件があります。この言葉の意味するところは、「企業というものは将来的にも存続し、事業を継続するもの」というものです。基本的には企業というものは、ずっと続くものだと考えられ(期待され)、経営されています。

 

しかし、先ほど説明したピーターの法則が指摘するような「どの階層も無能な人材で埋め尽くされる」状態になってしまうと、その企業の存続は危うくなってしまうでしょう。

 

ピーターの法則を乗り越えて、組織を維持または成長させ続けるためには、外部環境やゲームのルールが変わった際に、柔軟かつ迅速に対応できる人材を揃え、体制を最適化する必要があります。

 

そのためには「現在のポジションにいる人材が、期待される以上の能力を開発・発揮する(適材適所)」または「ポジションに最適な人材を、配置・入れ替えできる状態にする(適所適材)」のどちらかが求められます。

社員も会社も雇用システムも「変化」を求められる時代

一括採用した社員を定年まで雇用し右肩上がりで処遇し続けるという、多くの日本企業で続いてきた雇用システムは、社員にも会社にも温かくありがたい仕組みかもしれません。

 

しかし一方、本来期待されている活躍や変化対応ができない社員が増加して固定化し続けてしまうと、環境変化に対する企業の機動性が損なわれ、新しいニーズに適応しきれないという問題を生み出します。結果として、企業の競争力や成長力が鈍化し、ミドルシニアだけでなく若手も含めた社員のモチベーションを押し下げる状況を生み出すことに繋がります。

 

 

これまでの日本企業では、社員が新卒で入社後に初めは給与を低めに抑えられるものの、毎年の昇給や一定年齢での昇格を続けることによって最終的な生涯賃金と成果が均等化される形になっていました。

 

国税庁の「民間給与実態統計調査(令和元年度)」では、男性社員の20歳〜24歳平均給与は278万円、50歳〜54歳で679万円と、2倍以上になっています(最近は、新卒入社時から給与や賃金体系にメリハリをつける企業も散見されています)。

 

これを社員の立場から見ると、「若い頃は安い給与で使われるが、年をとってからそのモトを取る」という考え方になるかもしれません。

 

このシステムは日本企業が強い競争力を持っている時代にはうまく機能していました。しかし、グローバル競争の激化に伴ない、これまでのように全社員を長期に渡り厚遇し続けることが難しい時代になったのです。以前のビジネス環境に適応していたシステムが、時代の変化に伴って疲弊してしまったことが、「働かないおじさん」問題を顕在化させたのだとも考えられます。

 

 

難波 猛

マンパワーグループ株式会社 シニアコンサルタント

 

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※本連載は難波猛氏の著書『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)から一部を抜粋し、再編集したものです。

「働かないおじさん問題」のトリセツ

「働かないおじさん問題」のトリセツ

難波 猛

アスコム

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