(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継のトレンドは、親族内承継から第三者承継へとシフトしつつあります。第三者への承継というと全株式を譲渡するM&Aが主流ですが、少数の普通株を譲渡して、残りは無議決権株式としてオーナーが保有するという「第4の承継スキーム」も選択可能です。実際にこの方法で承継し、今では後継者の育成講座などを行っているという筆者が、第三者承継における後継者育成のポイントを解説します。

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後継者とは、今すぐにでも「社長の代役」になれる人

私は後継者育成の講座を開いていますが、そこに集まる受講生たちに「後継者ってどんな人?」という質問を必ずします。そこで出てくる回答は「ぼんぼん」「お金持ち」「社長の息子」など、ほとんどが漠然としたイメージです。

 

後継者とは何かというと「今、この瞬間から社長の代わりができる力を持った人」です。

 

会社にとって一番のリスクは今の社長が仕事ができなくなることです。社長がいなくなることで事業は停止し従業員は戸惑い、意思決定をする者が不在になって右往左往します。

 

そのとき即座に社長の代役ができるのが後継者という存在です。

 

そのように考えると後継者に必要なものが見えてくるはずです。第一に経営のスキルがないといけませんし、自社のことが分かっていないといけません。また、どんどん意思決定をしていかなければならないので受け身であっては困ります。情報収集のアンテナを張り、先を見越した戦略や対策を立てる能力も必要です。さらに従業員や取引先との関係を円満に続けられることも不可欠な条件です。

 

後継者とはそういう存在だということが実はあまり理解されていません。後継者は社長にもなりきれず、かといって従業員とも違うという中ぶらりんな存在になりがちです。すると本来の目的(社長の器になる)を見失ってしまい、異業種交流会ばかり行って会社に来ないとか得意な仕事だけやって他は手つかずなど、経営を学ぶことに身が入らなくなります。

 

オーナーのほうも後継者とは何たるかを分かっていない場合、単に株式や事業用の資産を譲渡して事業承継をした気になってしまいます。

「社長の代役」に仕上げるためのポイント

社長の代わりができるためには、重点的に育成しなければならないポイントがあります。

 

■後継者に必要な「経営の4大テーマ」

後継者向けのスクールでは、後継者としての心構えや経営に関する知識などを学びます。スクールごとにプログラムやカリキュラムは異なりそれぞれに特色がありますが、基本的な部分はどこも同じだと思います。

 

スクール出身者がどういう知識やスキルをもっているのかを知っていただくために、当社のプログラムに基づいて概要をお話しします。どこのスクール出身者でもこの部分は習得済みと考えて育成期間を短縮することができます。また、後継者がスクール出身者ではない場合は自社で育成する際に意識するべきポイントが分かると思います。

 

まず経営で知っておきたい具体的な中身として、4つの大きなテーマがあります。

 

1つめはビジネスモデルです。自社の強みを見抜き、限られた人材・資金・時間を活用していかに利益を生み出していくかがテーマです。経営戦略や業績の立て直しなどに必要なものです。

 

2つ目の財務・資金は、決算書の数字の読み取りや特にどの数字に注目すればいいかなどがテーマです。本当に今のやり方で利益が出ているのかどうか、会社が倒産しにくいかどうか、クリーンな経営で健全かどうかなどを判断するのに必要なスキルです。

 

3つ目に人・組織とリーダーシップがあり、これはリーダーシップの本質を学ぶのがテーマです。後継者に求められるリーダーシップは創業者に求められるリーダーシップとは性質が異なります。そのことを踏まえて「人を通して課題を解決する力」を養っていきます。

 

4つ目は統治基盤です。株式やコンプライアンスなど会社の土台となる要素です。基盤が揺らぐと会社そのものの存続が危うくなるため、いかに基盤を強固にしていくかがテーマです。

 

4つのテーマを通して受講生に伝えるのは「先人の失敗に学ぶことの重要性」です。ビジネス成功者が成功した経緯や理由を紐解いていっても、人それぞれで成功の秘訣が違います。発想の妙で勝ち上がってきた人、人心掌握術に長けて味方を増やしてきた人、神がかり的な強運で成功した人など本当にバラエティに富んでいます。これは経営者によって強みが違うためです。

 

つまり先人がうまく行った方法をなぞっても、必ずしも成功するとは限りません。

 

それとは対照的に、多くの経営者が失敗するパターンを見ていくとみんな同じようなところで躓いたり足元を掬われたりしていることが分かります。失敗しやすい共通項を学ぶことで、同じ轍を踏まないようにするというのが経営のリスクを減らすことに繋がるのです。

 

ですから、オーナーからも自身の成功体験を話すより失敗談を話すほうが後継者の役に立って喜ばれます。

 

■自社のDNAを注入する

社内承継の場合は入社してから今までの間に様々なことを学んできていますが、外部招聘の場合は自社についての予備知識がほとんどない状態です。そのため、自社で経営していくのに必要な知識を与えてあげなくてはなりません。

 

最も大事なのは、会社のDNAとも言うべきオーナーの経営理念や経営方針です。経営者としてどの方向を目指して進んで行ってほしいかを時間をかけて丁寧に教えるべきです。

 

また、社内の明文化されていないルールや習慣、企業風土、社員のモチベーションの源泉が何なのか、見えない爆弾がどこにあるのか、自社の強みは何なのか、どうしたら売上を立てて行けるのか…なども大事です。この現状把握なしに、今後の経営方針や戦略を立てることはできません。

 

■現場を学ばせる

中小企業研究センターが行った「教育の際、力を入れた分野」というアンケート調査があります。それを見ると、事業承継の成功企業も非成功企業も「営業」「財務・経理」と回答している割合が高くなっています。

 

しかし「生産・製造」「企画・開発」という回答は成功企業で高く、非成功企業で低くなっています。

 

つまり、営業や財政に関しては教育するのは当たり前で成功企業ではさらに生産や製造などの現場仕事をしっかり教えているということです。また、企画・開発など事業の開拓に関する教育にも余念がないことを示しています。

 

経営者は社長の椅子に座って算盤を弾くだけでなく、現場を把握する力や自社の強みを活かして将来の事業に活かしていく力が求められるのです。

 

■失敗することを良しとする

長く経営してきたオーナーの目から見ると後継者は何かと頼りなく思えるでしょうが、それは経営経験の浅さゆえです。自分が駆け出しの経営者だった頃を思い出してもらえれば、後継者の立場が見えてくると思います。

 

人との接し方やリーダーシップの発揮の仕方、人心掌握術など最初から何でもできたわけではないはずです。挑戦し失敗し反省し人のやり方も参考にしながら、自分なりの経営を作り上げてきたように後継者にも挑戦し失敗して学ぶ機会が必要です。

 

■十分な情報量を与える

すべての後継者に言えることとして、スタート時点では自社についての情報量が圧倒的に不足しているという不利があります。

 

オーナーは会社のことを全部知っているのでスピーディに経営判断ができるのですが、後継者は経験も情報量も足りないために早い決断ができず、ときに誤った判断にもなってしまいます。これは能力の差ではなく経験と情報量の差から生じていることです。ですから、経営に必要な情報は惜しまず与えてください。

 

■社外人材ならではの強みを伸ばす

社外から招聘した後継者の強みは、先入観やしがらみなしにまっさらな目で物事を見られることです。この強みを活かせるようにオーナーがサポートしてほしいのです。今までやりきれなかった社内改革やコストカットの断行なども後継者がやってくれるはずです。

 

■後継者育成は子育てと同じ

人材育成は子育てと同じです。親のほうに余裕がないとイライラ、ガミガミ言ってしまいますが、心に余裕があると子どもが失敗したりぐずったりしても「こんなもんさ」と構えていられます。親が細かく口出ししないほうが子どもは本人なりのやり方や要領を掴んで、早く上手にできるようになります。

 

ゆっくり焦らず後継者が育つのを待つためにも、事業承継には時間的な余裕があったほうがいいです。オーナーが病気になってから慌てて育てようとするとあれこれ手や口を出さなくてはならず、後継者との関係が悪くなってしまう恐れがあります。

 

 

宮部 康弘

株式会社南星 代表取締役社長

 

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※本連載は、宮部康弘氏の著書『オーナー社長の最強引退術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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宮部 康弘

幻冬舎メディアコンサルティング

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