(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継のトレンドは、親族内承継から第三者承継へとシフトしつつあります。第三者への承継というと全株式を譲渡するM&Aが主流ですが、少数の普通株を譲渡して、残りは無議決権株式としてオーナーが保有するという「第4の承継スキーム」も選択可能です。実際にこの方法で承継し、今では「後継者候補」と「後継者を探しているオーナー」を結ぶマッチング事業を行う筆者が、第三者への承継において後継者候補の「資質」を見抜くポイントを解説します。

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どういう人材がいたら助かるか?右腕に欲しい人材は?

後継者候補が現れたら次は自社にとって相応しい人材かどうかの見極めが必要です。社外から後継者を探せば確かに選択肢は広がるものの、これまでほとんど面識がなかった人が経営を継ぐことになりますから、過去の実績や本人の能力、経営に対する熱意などを見極めるのは親族内承継や社内承継と比べると格段に難しくなります。

 

私もこの仕事をしていると多くの社長と事業承継の話をしますが、そのとき「良い人材がいたら紹介してよ」と頼まれることが多いです。しかし、後継者探しは結婚のお見合いと同じで漠然と良い人を探しているうちは本当のめぐり逢いはできません。

 

後継者に求める条件が明確でないということは、ターゲットがぼんやりしているということです。つまり、出会った相手が自分の望んでいる人なのかどうかの判別がつきません。もし理想の後継者に出会っていたとしても、そうとは気付かずに縁を台無しにしてしまうこともあり得ます。

 

まずは後継者に望む条件を書き出すなどして明確化します。そして譲れないものに優先順位をつけていけば、自分が希望する後継者像がはっきりしてきます。

 

条件を考えるときは「どういう人材がいたら助かるか」「自分の右腕に欲しい人材とは?」という視点で考えると、具体化しやすいです。

自社の事業に願望と熱意を持っている人物か?

ランチェスター経営で知られる竹田陽一氏は「事業を成功させるためのウェイトは、熱意・願望が53%。戦略・戦術は47%」と述べています。頭で理論的に考えることより、熱意があるほうが大事だということです。

 

後継者選びでも自社の事業に興味を持っているかは、仕事を任せるうえで重要な条件です。

 

単に会社の業績が良いから、社長の報酬が良いから、ネームバリューがあるからなど上辺だけの条件の良さで選んでいないかどうかを見ます。お見合いで言えば、高学歴、高収入、外見、家柄などで選んでいないかどうかです。

 

結婚では今は収入が良くてもリストラされて無収入になることもあります。そのときにお金だけで結婚したカップルは離婚してしまうはずです。それと同じで会社の業績も良いときもあれば落ち込むときもあります。業績が悪くなったらやる気を失う、会社を放り出すというのでは困ります。

 

本当に会社の事業が好きであれば、多少の業績の浮き沈みで心が離れることはなく、むしろ「この会社を元気にしたい」と頑張ってくれるのです。

従業員を幸せにしてくれる人か?

いくら仕事が優秀でも思いやりがなく、自分のことしか考えない経営者だと従業員が苦労します。自分が気に入らないと辛く当たったり、解雇したりされたりすることも起こりえます。

 

従業員は一緒に日々を戦ってきた戦友ですから彼らを幸せにできない後継者には会社を任せられません。

 

従業員を大切にしない会社というのは、一時的に業績が上がることはあっても長続きはしないものです。社長のため組織のために頑張ろうという気持ちがなくなり、自分のためだけに働くようになり、しまいには辞めて行って会社の組織力はボロボロになります。

どういう価値観の人間か?

人それぞれ仕事観や人生観は違います。どれが正解というのはないですが、後継者候補の仕事観や価値観に共感できるか、自分とは違う価値観でも「そういう考え方もあり」と思えるかどうかは大切な判断基準です。自分とはまったく相容れない価値観の人とは、なかなか同じ方向を見て進んでいけません。

 

後継者候補が何に喜びを感じる人なのか、何を大事に考える人なのか、人生のテーマは何なのかなどをよく見て、話してください。

 

たとえば「お金を稼ぎたい」という後継者候補がいたとして「この人はお金目当てだから不合格」とすぐ結論するのではなくもっと深く掘り下げていきます。「お金を稼いで何をしたいの?」→「それを手に入れたい理由は?」→「欲しいものを手に入れたらその先は?」と聞いて行けば、その人が本当に欲しいもの(本質的な価値観)が見えてきます。

 

仕事の能力だけでなく「経営の能力」をチェック

経営をしてきた人なら分かると思いますが、仕事の能力と経営能力は必ずしも一致しません。大会社の部長クラスといえばかなり仕事のできる人ですが、経営をやらせてみると全然ダメということがあります。

 

その人の肩書だけ見て全部を信じるのではなく、実際に経営をさせてみて適性を見定めるようにするのがポイントです。「こういう場合はどういう経営判断をするか」のように、お題を出してシミュレーションしてみるのも有効です。その答えによって経営に向いているかどうかを測ることができます。

 

経営させてみて最初は手こずってもこちらの教え方次第で伸びていく人もいます。逆にスタートダッシュは良くても、途中で伸び悩む人もいます。この辺りは長年経営者をしてきた読者なら、ある程度の目利きができるのではないかと思います。

 

自分の眼に自信がないという場合は、第三者の意見を聞くのが望ましいです。人材育成のコーチや人事採用の担当者など、様々な人を見てきた人なら何回か面談すれば的確な感想やアドバイスをしてくれます。

性格は「素直な負けず嫌い」が望ましい

性格面では「素直な負けず嫌い」が良いと考えます。

 

素直な負けず嫌いとはどういう性格かというと、例えば自分より仕事のできる人がいたときに相手を否定する人と肯定的に見る人がいます。否定的に見る人は「あいつはズルイことをして成績を上げているんだ」「コネで出世した」と言うように、相手のことを貶めて自分が上に立とうとします。

 

肯定的に見る人は「あいつ凄いな」と、素直に相手の良さを認めます。さらに、そこで「でも、負けて悔しい!」「自分もあいつみたいになってやる!」と思うことができたら、次は自分も良い仕事ができるように努力します。これが素直な負けず嫌いです。

 

前者と後者どちらが成長できるかは言うまでもありません。経営者は人の上に立つ仕事でともすれば傲慢にもなりがちですが、そこを勘違いしないで謙虚でいられる人は自分も周りも伸びていけます。

 

 

宮部 康弘

株式会社南星 代表取締役社長

 

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※本連載は、宮部康弘氏の著書『オーナー社長の最強引退術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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幻冬舎メディアコンサルティング

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