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ドラッカー曰く「事業承継は経営者の最後のテスト」
ドラッカーの言葉に「事業承継は偉大なる経営者が受けなければならない最後のテストである」とあるように、経営者にとって会社を次の代に引き継ぐことは最後のミッションです。
私も経営者の一人としてこの言葉を重く受け止めているのですが、会社を興したり先代から引き継いだりすることよりも会社を存続させて次の代にバトンタッチすることのほうが、はるかに大変だと感じます。
今の会社を継いですぐの頃の私は「後継者って大変だな」と思っていました。だから未来の後継者たちが自分と同じ苦労をしないようにと、経営者になりたいと考えている人と、後継者がいなくて困っている中小企業とを結ぶ「LEADERSプロジェクト」の新事業を始めたのです。
しかし、ここまで会社を経営してみて利益を出し雇用を維持し続けていくことの苦労とプレッシャーを身に染みて知りました。今は「後継者は大変、でも経営を続けていくことのほうがもっと大変、次の代に繋ぐのはもっと大変だろう」というのが本音です。
どんなに大変でも会社は残していきたい、自分の代で潰すもんかという決意はあります。私の会社は2021年で創業73年を迎えました。この歴史を私で途絶えさせるわけにはいきません。先代たちが人生を捧げて守ってきたロマンの結晶を、未来に繋ぐ使命が私にはあります。
改めてドラッカーの言葉の真意を考えると事業承継を成功させてこそ本物の経営者であり、単に事業承継を完了するだけでは及第点をもらえたに過ぎないと読めます。事業承継に失敗したり廃業したら経営者として赤点です。
事業承継ではただ後継者を見つけて株を渡せばいいというのではなく、承継のプロセスや質も大事だということです。承継の質とは自社のDNAを確実に後継者に引き継ぐことです。承継のプロセスとは承継を進めることで誰かを傷つけたり不幸な人を作らないということです。
事業承継が成功か及第点か失敗かは、何年か経ってから分かることです。その場では完璧に成功したように思えても半年後1年後に経営が揺らぐことがあれば、それは成功とは呼べないからです。
後で振り返ったとき会社に関わるみんなが笑顔で「良かったね」と言い合えるのが、事業承継の成功でありゴールです。
私自身もこれから事業承継をするときに、ドラッカー先生に花丸をもらえるように気を引き締めたいと思います。
「自分の代で終わり」は万策尽きたとき
■日本は世界1位の100年企業保有国…「自分の代で終わり」はもったいない
今は事業承継や企業同士の生存競争が難しい時代になっていますが、もともと日本企業は長生きといわれます。日経BPコンサルティング・周年事業ラボが調査したところでは世界で最も100年企業が多いのは日本の3万3076社で、世界の100年企業のうち41.3%を占めています。
さらに凄いのは創業200年企業でも日本は1位で、世界で占める比率が65%にもなることです。2位のアメリカは11.6%なのでダントツで日本が多いことが分かります。
ちなみに、日本で最も長生きの上場企業は434年の松井建設だそうです。非上場も含めた日本最古の企業は578年創業の金剛組だと言われています。飛鳥時代から1400年以上、宮大工の技術を継承しています。
1400年以上もの間、戦争や不況や飢饉などいくつもの試練があったのに脈々と職人を育て、職人から棟梁を育て、経営者を輩出してきたことに感動します。
私も先達にあやかって、今の会社を100年企業にすることを目指しています。
今、廃業を考えている中にも歴史のある会社のオーナーがたくさんいるはずです。せっかくの歴史を絶やしてしまうのはあまりにも残念です。歴史があるということは、それだけで価値があることです。その価値をどうにかして次の代に繋いでほしいと願います。
■廃業は「いつでもできる」からこそ、まずは後継者を探してみてほしい
私は一貫して「廃業は最後の選択」だと思っています。親族内承継も、社内承継も、M&Aもできなくても、株式をほとんど買わずに経営権だけを承継する「第4の事業承継」があります。
第4の事業承継にも確かにハードルはありますが、それをクリアするための方法や対策もきちんとあります。例えば、今は社外から後継者を見つけるハードルも下がって来ています。それに後継者を育成してくれるセミナーやスクールもあります。しかるべき手順を踏んで進めていけばきっとあなたの会社を継ぎたいという人材が現れ、円満な事業承継ができるはずです。
「自分の会社くらい無くなっても構わない」とは言わないでほしいのです。会社には「私益」「共益」「公益」の3つの益がありますが、会社を潰してしまうということは全部の益がゼロになることを意味します。
私益がゼロになるのも痛いですが、共益・公益が失われることも社会にとって大きな痛手です。会社を作った者の責務として今後も存続させていく可能性を諦めてはなりません。自分は創業者じゃない、先代から継いだんだという場合も創業者の想いを引き継いだのですから責任は同じです。
廃業はいつでもできます。あなたの会社の価値が分かる後継者がどこかにいるかもしれないのです。それを探してからでも決断は遅くないはずです。
宮部 康弘
株式会社南星 代表取締役社長
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