(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継のトレンドは第三者承継が主流になりつつありますが、まったくの社外の人間を後継者にする場合、親族内承継や社内承継に比べて、従業員との問題が頻発しやすい傾向にあります。かつて先代社長から「会社を継いでほしい」というメールを受け取り、事業承継することを決めたという宮部康弘氏も、社外から来た後継者として関係構築の難しさを身をもって経験した一人です。今回は事業承継を成功させるために押さえておきたい、後継者と従業員の「関係作り」について見ていきましょう。

【関連記事】6割が黒字会社…日本で「廃業せざるを得ない会社」のリアル

社員の理解を得るため、オーナーが「お墨付き」を宣言

外部招聘の後継者は、初対面で従業員からの理解が得られにくいのが普通です。私も初めは「何者だ、こいつ」「本当に社長ができるのか」というようなネガティブな感情に出合いました。とりわけ私の場合はメールでの事業承継で先代からの引き継ぎが何もなかったため、余計に従業員の戸惑いや私に対する違和感は強かったに違いありません。

 

インターンの期間が終わって正式に後継者になることが決まったら、なるべく早い段階で従業員には報告すべきです。

 

「自分はこの会社の後継者には彼しかいないと思っている」「1年間の仕事ぶりを見て、会社の未来を託せる人材だと判断した」というように、オーナーのお眼鏡に適った人物であることを宣言するのが効果的です。その一言があるのとないのとでは大違いです。

 

これまでオーナーを信じて付いてきてくれた従業員ですから、そのオーナーが抜擢した人材なら大丈夫と思ってもらえます。最初のハードルが下がることで後継者にかかるプレッシャーも軽減できます。

「進むべき方向」を伝えることで「社内の分裂」を防ぐ

「オーナーと後継者が同じスタンスである」ということを、言葉や態度で従業員に示すことも大事です。

 

経営者が代わっても今までと進む方向は変わらないということを知らせてあげないと、従業員は不安です。オーナーが完全に引退するまでは会社にトップが2人いることになるため、どちらに従えばよいか分からなくなってしまいます。社長を引退して会長になる場合も同様です。

 

「先代派」と「後継者派」に従業員たちが分裂してしまうという事業承継の失敗パターンもそうして生じます。

 

従業員たちが二分するとどうしても対立構造になります。どちらが主流派になるかで社内での立ち位置や処遇が違ってくるからです。仕事より派閥争いにエネルギーが割かれれば事業にも支障を来たします。

 

派閥に合わない人を排除して辞めさせてしまうケースもあります。企業小説の世界ではドラマが盛り上がりますが、自分の会社で起こると笑い話では済みません。

「先代のやり方を否定する」は失敗の元

後継者のリーダーシップの発揮の仕方は、創業者のそれとは違います。創業者の場合は強いリーダーシップで「俺に付いて来い」が通用しますが、後継者がそれをやると誰も付いてきません。「何も知らないくせに偉そうに」と反感を買うのが目に見えています。

 

もっと言えば、後継者のことを自分たちが信じて付いてきた先代社長を追い出した敵のように見られてしまうこともあります。ですから、後継者には自分と同じようなカリスマ性を求めてはいけません。

 

リーダーシップについては私も後継者育成プログラムで講義をしますが、いつも受講生たちに言っているのは「錦の御旗を掲げよ」です。

 

錦の御旗とは天皇の意志を示す印として官軍が掲げる旗のことです。御旗を掲げることで自分たちは天皇の権威や大義の下にあり、それを代行する者だという印になります。つまり自分は先代のやり方を踏襲し、先代ができなかったことを代行する者であるという表明を従業員の前でしなさいと教えています。

 

後継者の犯しがちな過ちとして「先代のやり方を否定する」というのがあります。「先代のやり方は古い。自分が改革する」と言い出すのがその例です。初動からそれをやるとたちまち従業員から反感を買います。

 

先代を否定するということは、先代に付いてきた従業員たちも否定することです。「俺たちがやってきたことが間違いだったと言いたいのか」「俺たちを無能と思っているのか」と、従業員たちは傷つき腹を立てるでしょう。

 

そうではなくて「先代が目指したものを私も目指していきたい。だから従業員のみなさんの力を貸してください」という姿勢で対話すると、後継者は理解や共感が得られやすくなります。

 

従業員に付いて来させるという目的は同じなのですが、社長の命令で引っ張っていくのか従業員たちが自分の意思で付いて来るのかで、後継者との団結の仕方が大きく違ってきます。

 

ですから、オーナーも後継者に御旗を預けたことを従業員に表明するべきです。「私がやり残したミッションを後継者に託したのだ」「彼は私の意志を継ぐ人だ」ということを折に触れて話して聞かせることも必要です。

 

そういう意味では後継者は自信満々に見せるよりも、ベテランの従業員に相談するなどしたほうが「よし、それなら助けてやろう」と思ってもらえます。素直な人や頑張っている人のことは誰でも応援したくなりますし、頼られて嫌な気がする人は少ないはずです。

 

後継者が困っていることを隠さなければ、手を貸してくれる従業員も出てくるものです。

 

従業員に対してマウントを取るような態度に出る後継者がいますが、それは「下手に出るとバカにされる」と恐れているからです。実際にはみんな大人で立場を弁えているので大抵の場合は後継者の疑心暗鬼なのですが、まだ自信がないため虚勢を張ってしまうのです。

 

後継者にリーダーとしてあるべき姿を教え、従業員への態度を改めるように軌道修正していくのも先代の務めです。

 

 

宮部 康弘

株式会社南星 代表取締役社長

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

※本連載は、宮部康弘氏の著書『オーナー社長の最強引退術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

廃業寸前の会社を打ち出の小槌に変える オーナー社長の最強引退術

廃業寸前の会社を打ち出の小槌に変える オーナー社長の最強引退術

宮部 康弘

幻冬舎メディアコンサルティング

赤字、零細企業でも後継者は必ず見つかる! 経営権を譲渡し、財産権を残す“新しい事業承継の形”とは? 後継者候補探しから承継のスキームまでを徹底解説。 後継者不在で、廃業してしまう会社が日本にはたくさんありま…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録