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円満な事業承継の秘訣…「仲介役」の採用
事業承継ではオーナーと後継者の対話がとても大事です。対話ができないとどんどん溝が深まり、修復不可能になってしまうことがあります。そうならないためには直接意見をぶつけ合うのではなく、間に中立的な立場の人を入れて対話するべきです。
緩衝材となってくれる人がいると、意見が対立しそうになったときも火花を散らすことを避けられます。
また、仲介役がいることで言いにくいことも話せます。例えば、オーナーから後継者のやり方について「この部分については従来の方法を守ってほしい」「取引先は切らずに今まで通りで」などの要求はしにくいものです。経営に口を出すのかと気分を害する恐れがあるからです。
特にお互いの損得や感情が絡む問題のときは、仲介役を通じて後継者に話してもらうことで角が立たずマイルドに伝わり、こちらの要求が通りやすくなります。
愚痴や不満、不安などは、たとえ解決ができなくても人に話すだけでガス抜きになり、許せることも多々あるものです。
円満な事業承継をするには「オーナー・後継者・橋渡し役」の3者を揃えて進めるのが最もリスクを減らせる秘訣です。
■面談の組み合わせは「オーナーと仲介役」「後継者と仲介役」
面談のポイントは3者の同席ではなく、オーナーと橋渡し役/後継者と橋渡し役というように別々の場を設けることです。そうすることで直接は言えないことも話せます。
橋渡し役はヒアリングしたことをそのまま相手に伝えるのではなく、情報を整理して必要なことだけ伝えるようにします。
あくまで中立的な立場を貫き、お互いにとって必要な情報を取捨選択して伝え、前向きに対話が進むようにコーディネートするのが橋渡し役の役目です。人間関係のナイーブな部分なので気を使いますが、なかなかできる人がいないからこそ腕の見せどころでもあると思って私も日々の面談に臨んでいます。
ちなみに事業承継の仲介役にはM&A仲介業者や税理士、経営コンサルタントなどがいますが、株式譲渡が任務のゴールになりがちで人間関係の泥臭い部分には立ち入らないケースがほとんどです。そこに踏み込んでも大したお金にならないし、カウンセリングのプロではないので負担が大きいからです。
後継者選びと同様に仲介役選びも慎重に行ってほしいと思います。
衝突しそうなときに唱えたいひと言、「恕(じょ)」
「恕(じょ)」とは、『論語』に出てくる言葉です。
あるとき弟子が孔子に尋ねました。「ただ一言で、一生行っていくに値するものがありますか」。すると、孔子がこう答えました。「それは恕だ。自分がされたくないことを人にしてはいけないよ」。
この故事から、恕とは「他人の立場や心情を察すること」「相手を思いやって許すこと」という意味で使われます。
事業承継でもこの恕の心が成功のカギとなります。「自分が後継者なら…」「自分が社長なら…」「自分が社員なら…」と想像を働かせることで相手の気持ちを思いやり、立場を尊重して行動していけます。
事業承継を進める際に、後継者とオーナーで「恕」を合言葉にし、衝突しそうになったり相手への不満が募ってきたら、心の中で「恕」と唱えるのです。すると立ち止まって「そうだ、後継者(もしくはオーナー)はどう思っているだろう」と振り返ることができ、暴走しそうな気持ちを落ち着かせることができると考えます。
冷静になってみれば事業承継の主役は後継者であることを思い出し、譲れることも出てくるはずです。まずは自由にやらせてみて失敗しそうになったら手を貸してあげるという距離感が理想です。
ぴったりくっついて二人三脚すると疲れますから、ちょっと離れた後ろから見守りながら付いていくのです。そうすると程よい距離が生まれ、お互いがストレスになりにくいと思います。
後継者は「家族同然」。感謝と愛情で接するべき存在
事業承継ではしばしば後継者とオーナーとの対立が起きますが、両者は敵ではありません。二人で同じゴールに向かって進んでいく同志です。
また、オーナーが人生を捧げて築き上げてきた会社という「宝物」を自分に代わって守り、さらに大きくしてくれようとしている後継者は恩人でもあります。後継者がいなければ会社は廃業していたかもしれないのです。
ですから、色々と至らない点や心配な点はあっても根底には「ありがとう」の心があってほしいのです。
会社を「あげる」のではなく、「受け取ってもらう」。
後継者は「他人」ではなく、会社のDNAを引き継いだ「家族」と捉えます。そのように思えたら後継者への愛情が深くなるはずです。
人間関係というのは鏡映しですからこちらが苦手だなと思えば相手も離れていくものです。こちらが愛情をもって接すれば、必ず向こうも愛情で応じてくれるに違いありません。
宮部 康弘
株式会社南星 代表取締役社長
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