日本では、古代から木造建築がおこなわれており、時代とともにさまざまな木造建築に関する技術が発展してきました。その結果、現在では17の技術がユネスコの無形文化遺産に登録されています。しかし、この日本の宝ともいうべき技術は、後継者不足により失われてしまう可能性が高まっています。本記事では、歴史的建築物の再生・活用を中心に活躍する一級建築士の鈴木勇人氏が、「伝統建築工匠の技」の後継者不足の背景にあるものは何か、解説していきます。

高度な技術も、職人の高齢化と後継者不足で衰退の危機

こういった技術は世界的にも高水準の域に達しており、それは日本の歴史的建築物の繊細な美しさや壮麗さ、魅力に反映されていることはどれだけ強調してもしきれないほどです。その一方ですべての技術に関しては共通の重要課題があります。

 

それは「後継者不足」です。

 

どの技術分野においても職人の高齢化が進んでおり、それにともなって全体の人数も減っています。このままでは世界に誇り得る技術の数々が途絶えてしまいかねないという危機にさらされているのです。

 

例えば、総務省の「国勢調査」によると木造住宅の担い手となる大工就業者数は平成27(2015)年時点で約35万人です。平成7(1995)年は約76万人だったので、わずか20年で半分以下になっていることが分かります。約35万人の大工就業者のうち30歳未満は6.7%、一方60歳以上は38.7%を占めています。

 

左官に関しても60歳以上が占める割合は40%近くになっており、平均年齢は53.6歳です。国土交通省の「建設工業施工統計調査報告」では全国の左官職人は約3万人となっていますが、日本が高度経済成長期を迎えていた昭和50(1975)年では左官職人の数は約30万人でした。およそ半世紀で10分の1にまで減ったことになります。

 

大工や左官は建築における代表的な職種なので取り上げましたが、建設業界全体に関しても就職をする人が少なくなっているという現状があります。

 

一般社団法人建設経済研究所の「建設経済レポート(2021年3月)」によると、令和2(2020)年に建設業に就職した高校新卒者は約1万3000人でした。昭和41(1966)年は6万人以上だったので、78.7%もの減少が見られます。

 

平成の時代においては平成8(1996)年が約3万4000人と最多でしたが、それと比べても半分以下の減少です。ただ、これは少子化の影響もあって、母数自体が減って今あなたのまちに残っている建築物にはとんでもない資産価値があるいることは加味しなければなりません。

 

せっかく建設業界に就職したものの、わずかな期間で離職する人も少なくありません。厚生労働省が発表している新規学卒就職者の離職状況(2017年3月卒業者)によると、高校新卒者の3年以内離職率は45.8%。全産業の39.5%を大きく上まわっています。

 

大学新卒者に関してはどうかというと、建設業界に限定されることではありませんが、大卒者が生産労働(技能労働)に就くケースは少なく、50年以上にわたって2%を超えたことはありません。

 

厚生労働省と文部科学省の「大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況調査」によると、令和2(2020)年に生産労働に就いた大学新卒者は6592人。割合としては1.5%でした。

 

ただ、この数は10年以上前から増加傾向にあります。その背景には「ものづくりを仕事にしたい」という気持ちがあるのかもしれません。もしそうであれば、とても喜ばしいことであり、その思いがかなうように業界が体制を整えることも不可欠だといえます。とはいえ、建設業界の後継者不足は深刻な問題です。

 

その理由としてはさまざまなことが考えられます。

 

例えば技術を身につけて一人前になるまでの期間が長いことが挙げられます。技術の向上に終わりはなく、なにをもって一人前というかは意見が分かれるところでしょうが、少なくとも「あの人には安心して任せられる」と言われるくらいの技術を身につけていることは最低限の条件となります。

 

あくまでも目安ですが、職人が一人前になる期間としては「10年間」といわれます。それだけ下積みの期間も長くなるわけで、それを敬遠する人も多いと考えられます。

 

また、職人の世界では師匠・弟子という関係性のなかで技術を学んでいくケースが大半です。技術を教わるだけではなく、礼儀も厳しくしつけられます。上下関係の厳しさは今も残っており、そうした関係性を負担に思う人も多いはずです。

 

ただ、これは「根気が足りない」と若い人たちだけを責めるべき問題ではなく、教える側にも課題があるといえます。「背中を見て覚えろ」「技は盗むものだ」という考えは通用しなくなっており、職人側でも意識改革が必要です。

 

統計や調査結果でも見たように、ものづくりの仕事を視野に入れている若い人たちは一定数はいるわけですから、彼らをしっかりと受け入れる環境を整えることが大切です。

 

 

鈴木 勇人

ボーダレス総合計画事務所 代表取締役

 

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