日本の「過保護な中小企業政策」の失敗
欧米の中小企業は、統廃合を繰り返しながら少しずつ最適な規模を目指し生産性を向上させています。このとき存在感を示すのが独自のブランド継承の担い手であったり、IT系企業や金融系企業を中心とした新しい成長産業の担い手です。
一方、日本の中小企業は高度成長期の終焉以降は、経済成長自体は鈍化したにもかかわらず、廃業数を上回るペースで中小企業数が増加したことから、当然のごとく過当競争となり、次第に体力勝負の消耗戦に突入しました。
その後、バブル経済の崩壊やリーマンショック、東日本大震災といった経営環境への大打撃が立て続いたことにより、本来であれば相当な数の中小企業が淘汰されてしかるべきでした。しかし、国が中小企業保護政策を通して、現存の中小企業を保護する政策をとり続けたことにより、実際は想定されたほど淘汰は起こりませんでした。
つまり本来であれば新しい環境に適するように変化や成長を促すやり方、すなわち産業構造の再編や労働の移動を促進する政策をとるべきところ、雇用確保という旗印のもと、現存の中小企業の企業数を減らさない、という変化に抵抗する政策によってその雇用を維持するという方向が硬直的に定着してしまったのです。
もちろん雇用が失われることが望ましいわけではありませんが、問題は、雇用を守るという目的を中小企業の過保護によって実現しようとしたことです。このような雇用を維持するための金融緩和や補助金といった市場の競争原理に反した過度な中小企業優遇策によって本来は市場から撤退を求められた中小企業までもが延命されることになり続けました。
本来、数々の経済的な環境の変化に対応するためには、変化に適した新しい企業が、競争力を失い市場から撤退を求められた古い企業に取って代わる必要があります。これが市場の競争原理で、その時に労働者も古い企業から新しい企業にスムーズに移動することができれば、企業を守らなくても雇用を守ることができたはずです。
「雇用維持」という観点から、既存の中小企業の枠組みにとどまる企業を過度に保護するという国の間違った政策は、二つの大きな問題を引き起こしました。
一つは、グローバル時代の産業構造の変化を伴うような大きな変化の時期に新しい経済環境に適した新しい企業の、競争力を失った古い企業に取って代わるという重要な新陳代謝の機会までも減らしてしまったことです。俗に「ゾンビ企業」と呼ばれる、本来は死に体となっている企業が増加してしまうことについてはOECDなどによっても広く研究がなされており、その国の生産性上昇率や物価上昇に悪い影響を与えることがわかってきています。
企業の新陳代謝が少ないということは、収益率の高い成長期の企業が少ない一方、収益率の低い成熟期の企業が多くなり、国全体の収益力が低く押し下げられていると考えられます(図表6)。OECDの調査では開業率・廃業率と経済成長性の関係を見ると緩やかな正の相関が確認されています。
既存の中小企業の「雇用維持」に主眼を置く国の政策のもう一つの問題は、成長できたはずの企業に対してまでも成長の芽を摘んでしまうことです。市場からの撤退も求めないという、まさに過保護の状態が生み出されることで、「中小企業の枠内にとどまり成長しないほうが得をする」という負のインセンティブを国が用意してしまい、結果、高度成長期に爆発的に増加した中小企業の成長する意欲がそがれてしまったのです。
企業は規模が大きくなればなるほど物的資本の投下額が大きくなるため、社員一人当たりの設備は充実することとなり、当然生産性が大きくなります。その点では中小企業が大企業に比べて不利な立場に置かれているのは確かです。ですから、中小企業を応援すること自体に問題があるわけではありません。実際に中小企業保護政策自体は世界を見渡しても多かれ少なかれ存在していますし、頭ごなしに否定されるものではありません。
しかし、アメリカやドイツなど中小企業政策がうまく活かされている諸外国は、中小企業に対して中堅企業や大企業へのステップアップを包括的に促す主旨の政策となっています。日本のように雇用を維持するために成長を止めた企業も含めて既存の企業を思考停止のように保護し続けることは失敗だったと深く反省し、早急に改めるべきです。
三反田 純一郎
税理士
宅地建物取引士
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