(※写真はイメージです/PIXTA)

IMFによると、日本の「国全体のGDP」は世界第三位(2020年12月時点)です。2010年頃に中国に抜かれて第二位の座を失ったとはいえ、依然として経済大国であることに変わりはありません。実際、相変わらず日本が裕福な国だと考えている日本人もまだまだ多いのではないでしょうか。ただ、残念ながら世界からはそのように見られていません。日本企業の生産性や競争力の実力から、日本経済の実情を見ていきましょう。税理士の三反田純一郎氏が解説します。

中小企業はむしろ「国全体の生産性を引き下げる要因」

さて、ここまで海外と比較することで日本企業全体の競争力や生産性について見てきましたが、改めて「中小企業」という観点から考えてみたいと思います。まず、「中小企業」は、その括りかたが法律や統計調査などによって少しずつ異なりますが、一般的には図表4の中小企業基本法に定義される業種ごとの資本金の額や従業員の数で規定される規模に収まる企業のことを指します。

 

(出所)三反田純一郎著『会社の資産形成 成功の法則』(中央経済社)より
[図表4]中小企業基本法に定める中小企業者の定義 (出所)三反田純一郎著『会社の資産形成 成功の法則』(中央経済社)より

 

この区分で分けた場合、登録された日本の全企業のうちの99.7%が中小企業ということになります。また、働く雇用者の比率でも中小企業で雇用される労働者の割合は全体の約70%で推移しています。

 

なお中小企業で雇用される労働者の割合を世界の他の国と比較するとアメリカは約50%、イギリスやドイツは約60%となっていますので、日本が最も高いことになります。いずれの指標からも確かに「量的」な面からは中小企業の日本経済におけるウエイトが大きいことは間違いないようです。

 

次に、「質的」な面でのプレゼンスはどうなのでしょうか?

 

付加価値、利益といった企業活動の成果の面から中小企業を見ると、中小企業のアウトプットの割合は全体の30~50%程度へと低下してしまいます(図表5)。

 

(出所)内閣府
[図表5]付加価値の大企業との比較(2014年〔研究費は2013年〕) (出所)内閣府

 

このことからわかるのは、中小企業は企業数が多いにもかかわらず、それに比例した付加価値を生み出すことができておらず、大企業に比べて総じて生産性が低いために、結果として日本全体の労働生産性を引き下げているということです。

 

ここまで日本国内の中小企業と大企業のプレゼンスの比較について見てきました。「中小企業が日本経済を牽引している」ということはどうやらなさそうです。確かに量的な面では日本は中小企業大国であることは間違いない一方で、質的な面では高度成長時代の思い込みやイメージを引きずりすぎたことが、日本全体の生産性を引き下げる要因となり、国全体が国際的にも際立った低生産性にあえいでいることがはっきりしてきました。

 

さらに、数の上でウエイトが大きい中小企業が質の面で低生産性にあえいでプレゼンスを発揮できないでいることにより、労働条件が悪い企業を多く生み出したため雇用の質も悪化し、長期にわたって国全体が労働者の賃金上昇の恩恵を受けられなかったため生活は苦しくなる一方となっています。

 

賃金が上昇しないと国の税収も上がりません。一方で、高齢化による人口減少は待ったなしです。このままでは増税や社会保障の負担に押しつぶされかねません。こんな日本の状況を考えると、とても中小企業の現状を放置していてよいはずはありません。

次ページ「中小企業の現状」を作り出したのは?

※本連載は、三反田純一郎氏の著書『会社の資産形成 成功の法則―「見えない」資産を築く最強の戦略』(中央経済社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

会社の資産形成 成功の法則―「見えない」資産を築く最強の戦略

会社の資産形成 成功の法則―「見えない」資産を築く最強の戦略

三反田 純一郎

中央経済社

どのような資産を、どのような理由で、どれくらい所有するか? 資産形成の優劣が会社の生死を決める。 保険は投資対象から外す、少額でも投資信託の積立投資は行う、銀行の経営者保証の解除は何としても勝ち取る etc。会…

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