(※写真はイメージです/PIXTA)

日本は「雇用維持」という目的を過度な中小企業優遇策によって実現しようとしたために、ゾンビ企業が増加し、成長できたはずの企業に対してまでも成長の芽を摘んでしまいました。今や中小企業は、生産性を引き下げる要因となってしまっています。税理士の三反田純一郎氏は、現在に至るまでの日本の中小企業経営スタイルを、その特殊性から「日本型中小企業経営」と呼んでいます。あえて「日本型」としているのは、様々な指標から日本以外の国では考えられないような“機能不全の症状”が隠し切れずに出始めているからです。日本の中小企業のリアルを見ていきましょう。

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中小企業の「目を覆いたくなる実態」

日本の中小企業経営には単に低生産性という病巣の問題だけでなく、そこから全身に転移して資産形成や働く人のモチベーションにまで悪影響を与えてしまうという目を覆うような状況が生じています。

 

■10年以上前から「6割超が赤字企業」という異常

まずは図表1で示される赤字企業の比率です。企業は本来利益を出すために経営していることが大前提です。実際「赤字」という言葉は経営者からも銀行からも忌み嫌われるもののはずです(少なくとも税理士である私はそう理解しています)。にもかかわらず半分以上の企業が赤字申告をしている(10年以上前から60%以上の高い割合で推移しています)というのはやはり異常と言わざるを得ません。

 

(出所)「平成29年度分『会社標本調査』調査結果について」国税庁
[図表1]赤字企業率の年度推移 (出所)「平成29年度分『会社標本調査』調査結果について」国税庁

 

赤字ということは原則として法人税も納めていないことになります。法人税は国全体の税収の2割以上を占める主要財源です。赤字企業が減少すれば国の税収も上がるということを考えれば何とか赤字企業の比率を下げる方法を考えたいところです。

 

■日本の会社員は世界一「熱意がない」と判明

次に、働いている人の意識はどうでしょうか? こちらは従業員のエンゲージメントという指標から見ることができます。従業員のエンゲージメントとは仕事への熱意度とも言い換えることができます。

 

大企業か中小企業かを問わず、世界各国の企業を対象に行った従業員エンゲージメントの調査によると(図表2)、日本はなんと、「熱意ある社員」が全体の6%しかいません。アメリカの31%と比べて大幅に低く、調査した139ヵ国の中で第132位とほぼ最下位となっています。大企業が足を引っ張っていたかもしれないことを考慮しても目も当てられない低さなのです。

 

(出所)「『熱意あふれる社員』の割合調査」ギャラップ社
[図表2]従業員エンゲージメント(2017年) (出所)「『熱意あふれる社員』の割合調査」ギャラップ社

 

あなたの会社の従業員は世界で一番熱意を持っていない、こう言われて大きなショックを受けない経営者はいません。

 

確かに現在多くの経営者が従業員エンゲージメントの向上に取り組む必要性を感じ始めていると聞きます。しかし、まだ実効性のある方法が確立されているわけではありません。

 

■この「異常事態」は、長年の日本型中小企業経営による産物

いかがでしょうか。これでも日本型中小企業経営は機能不全に陥っていないと言えるでしょうか?

 

なお、日本にいるだけでは周りの日本企業の状況も似たり寄ったりですし、忙しい経営者の方々はこのことに気づきづらいかもしれません。しかし、他の国と比較することで我が国の異常さがわかったかと思います。

 

また、「赤字で生産性も低いから従業員のエンゲージメントが下がるのか、従業員のエンゲージメントが低いから赤字になったり生産性も上がらないのか?」という生産性の低下と従業員のエンゲージメントの低下との関係はアドバイザーの間でよく議題に上がるテーマですが、どちらが正しいかは別として、こうしたテーマは最近急に出てきたものではありません。日本型中小企業経営の長年の蓄積による日本の企業風土や働く方々の仕事観によって生じたものです。

 

このことは、私が税理士やコンサルタントして日々接している中小企業の現場や経営者の悩み相談を通じても、実感しています。

 

中小企業の規模の小ささに由来する資産形成の不足はもちろんですが、特に近年、人の面と組織の面で、中小企業は構造的な問題を抱えています。日本はバブル崩壊後の30年間無形資産であるヒトや組織に徹底的に投資しなかったことで、知識や組織が価値を生む経済には適合できず生産性や成長率の低下を招き、それだけにとどまらず働く人のエンゲージメントにまで悪影響を及ぼす結果となってしまっています。

 

「熱意はない。ただし、その企業を辞めたいわけでもない」という日本企業で働く従業員のエンゲージメントについてのアンケート結果にはゾッとします。身から出たサビとはいえ、人や組織の活性化、チャレンジやイノベーションを起こしていくという課題(これが世界の潮流です)が、これからの日本の中小企業経営に重くのしかかっています。

 

では、日本の中小企業は変わっていけるのでしょうか? また変わっていく糸口はどこにあるのでしょうか?

次ページ日本人、日本企業を待ち受ける「未来」

※本連載は、三反田純一郎氏の著書『会社の資産形成 成功の法則』(中央経済社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

会社の資産形成 成功の法則―「見えない」資産を築く最強の戦略

会社の資産形成 成功の法則―「見えない」資産を築く最強の戦略

三反田 純一郎

中央経済社

どのような資産を、どのような理由で、どれくらい所有するか? 資産形成の優劣が会社の生死を決める。 保険は投資対象から外す、少額でも投資信託の積立投資は行う、銀行の経営者保証の解除は何としても勝ち取る etc。会…

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